東條、リハビリ中に見つけた感覚。MLB屈指の守護神が、新人1番の一軍昇格きっかけに【マリーンズ浦和ファーム通信#19】
マリーンズの2015年ドラフト組で一番に一軍昇格を果たしたのは、キャンプで最初に離脱した東條大樹だった。
2016/05/13
千葉ロッテマリーンズ
いきなりの怪我、ショックで頭が真っ白
いきなり躓いた。石垣島で行われた春季キャンプ第2クール3日目。二軍スタートとなったドラフト4位ルーキーの東條大樹投手はノックの練習中に左足を内側に捻った。体に激痛が走った。「これはヤバい」――自分自身、瞬時に事態の重さを理解した。それでも、すぐには諦めるわけにはいかなかった。プロ1年目の第1歩となるキャンプが始まったばかり。しかも、社会人(JR東日本)から即戦力の期待をかけられての入団。いきなり怪我をするわけにはいかない。頭の中でなんとか我慢をして練習を継続する方法を考えた。しかし、歩くのすら厳しかった。根性で続けられる状態では到底なかった。練習メニューの途中で無念のリタイアとなった。
「悔しかったですね。新人にとってキャンプは絶好のアピールの場ですからね。なんとか一軍に呼んでもらうために頑張ってアピールしようと意気込んで臨んだキャンプでした。辛かった。なかなか現実を受け止めることができなかった」
もう歩くことすらできなかった。翌日は一日、宿舎の自室で静養をした。午前中にチームメイトはグラウンドに行ってしまい、ホテルは静まり返った。ベッドに横たわっていると、誰もいない場所に一人、取り残された感覚に陥った。石垣市内の病院でMRI検査を受けた結果は、左膝内側側副靭帯損傷。医者からは「痛みが軽減するまでは安静が望ましい」と言われた。これまで下半身の怪我をしたことがなかっただけにショックで頭が真っ白になった。
なによりも1年目の最初のキャンプで新人では自分だけが怪我をして、グラウンドでアピールができなくなってしまったことが悲しかった。医者から「半月板、その他の靭帯には異常はないから、2週間程度で治るだろう」と言われたことが、せめてもの救いに感じたほどだった。
グラウンドでは同期入団の選手たちが大声を出して元気にアピールする中、東條は室内練習場の中でリハビリメニューをこなすしかなかった。下半身が動かせない以上、行えることは限られていた。何より新人でありながらグラウンドの外から練習を見ることしかできない自分に焦りを感じた。
「同期入団のみんなが練習をしている姿が羨ましかったです。普通に野球ができることがどんなに幸せなのか感じた」
そんな東條の想いを察した池田重喜寮長がリハビリ中に声をかけてくれた。プロ野球の世界に長い月日、身を置く寮長からの言葉は深く、そして重く心に響いた。
「いきなりキャンプで怪我をしたことは悔しいと思う。でも逆にこの早い時期で良かったかもしれないぞ。考え方はいろいろだ。やってしまったものは、もうどうしようもない。前向きにやるしかないよ」