桂か杉山、中日の正捕手に近いのは? インコースを攻めるから「強気」ではない【小田幸平の眼】
5月に入ってからの成績は6勝6敗1分の5割ながら、依然としてリーグ2位をキープしている中日ドラゴンズ。ここ最近の戦いぶりから、特にキャッチャーの配球面について、ドラゴンズOBで評論家の小田幸平氏に分析してもらった。
2016/05/18
リードは対照的な2人
――桂選手と杉山選手の違いは、具体的にはどのような部分でしょう?
小田 桂と杉山は、それぞれ相手バッターの攻め方が違います。杉山はインコースで勝負する。桂はアウトコースの出し入れで勝負する。桂のほうは、あまりインコースを突く冒険をしていない印象があります。これは逆に言うと、杉山があまりリード面で痛い目に遭っていないということなんですね。たとえばサヨナラの場面でインコースを打たれたり、勝負どころではないのにインコースに要求して打たれたりした経験があまりないから、インコースを攻め続けられるんです。
――インコースをえぐって攻める杉山とアウトコースの出し入れで打ち取る桂。リードは対照的なんですね。
小田 今後2人がどのようなリードを続けていくのか僕はわかりませんが、現状ではそのように分けられると思います。今週の試合で杉山がインコースのまっすぐを続けて打たれてしまい、谷繁監督に苦言を呈されていたようなので、今後は変わっていくかもしれません。
――杉山が強気のリード、桂はちょっと弱気なリードと考えていいのでしょうか?
小田 勘違いされやすいんですけど、インコースを攻めるから「強気」というわけではないんですよ。インコースでバッターの胸元をガンガン突いていくことを「強気」と言うこともありますが、逆に変化球を待っているバッターに変化球を放っていくのも「強気」なんです。カーブを待っているバッターに、ボールになるカーブを投げると空振りが取れる。それが「強気の投球」なんです。
――たしかに相手が待っているコースを利用する投球は、自信がないとできませんよね。
小田 現時点では、杉山は球に力のあるピッチャーをリードすると良い結果が出ることが多く、桂は吉見のようなコントロールのいいピッチャーをリードするとうまく行くことが多い。2人を足して2人で割ると良いリードになると思います。
――ただ、15日の広島戦では吉見投手を桂選手がリードしていましたが、序盤で集中打を浴びて先制されてしまいました。4日の阪神戦でも、吉見、桂のバッテリーで大量失点してしまっています。これはリード面に問題があったのでしょうか?
小田 桂のリードを見ていたのですが、吉見のほうを見てリードしていないように感じました。「前の試合で杉山がまっすぐを打たれたから、今日は変化球を選ぼう」というようなリードになっている。つまり、ベンチかどこかを気にしていて、自分で考えたリードじゃないんですね。僕が若いときも同じような経験があります。フォークボールを投げさせたいのに、「ここでフォークを選んで打たれたらベンチで何か言われる」と思ってまっすぐを投げさせてしまったり。前の日に杉山のリードで打たれたのなら、それを利用するしたたかさが桂には必要だと思います。
――以前、小田さんは正捕手1人で固定すべきだとおっしゃっていました。2人で切磋琢磨して良い結果が出ることもありますが、リード面では1人で考えて組み立てたほうが良い結果が出ることもあるんですね。
小田 そのあたりは谷繁監督が一番経験していることですから、ベンチで歯がゆい思いをしていると思いますよ。打撃が注目されるのは良いことですが、とにかくキャッチャーは守ってナンボ。自分でホームランを2、3本打つより、相手を完封したほうが価値のあるポジションなので、リードについてはこれからも研究していってほしいですね。
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小田幸平(おだ・こうへい)
1977年3月15日、兵庫県高砂市出身。ニックネームはODA(オーディーエー)。市川高校、三菱重工神戸を経て、97年ドラフト4位で巨人に入団。06年に野口茂樹の人的補償として中日に移籍。谷繁元信現監督の控え捕手として、チームのリーグ優勝3回、日本一1回に貢献。現役引退後は野球解説者はじめトークショーや講演、野球教室、イベントなど精力的に活動している。