内容ある水野達稀の打席。「ミスタースリーベース」記録更新の可能性も【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#227】
田宮裕涼がブレイクしている今シーズン。交流戦に入ってからは現役ドラフトでソフトバンクから加入した水谷瞬が猛アピールしている。目に見える数字で結果が出ている彼らはもちろんだが、それ以外にも内容ある打席を務める水野達稀も注目してもらいたい。
2024/06/09
産経新聞社
目が肥えているカープファン
今年の交流戦、個人的なハイライトは広島戦(6/4、5、6)だった。西日本で、かつセントラルの球場という僕にとってはいちばん縁遠いマツダスタジアムで3連戦を見てきたのだ。僕は番記者じゃないからなかなか遠征の3連戦を全部見る機会がない。結果的に1勝2敗と負け越したが、3連戦は「つづき物」であり全体を通して見えてくるものがある。あらためてそれを痛感した3泊4日の旅だった。
広島はこの3連戦、床田寛樹、森下暢仁、九里亜蓮と表ローテの先発を揃えてきた。まぁ、直後のロッテ戦、大瀬良大地がノーヒットノーランを達成しているので、大瀬良と当たらなくてよかったとも言えるのだが、セの一線級と対戦するのは「ミレニアム世代」中心のヤングファイターズにとって大変貴重な経験だ。3人のなかで今シーズン、最も結果を出しているのがテンポよく投げる床田(試合前の時点で6勝)、勝ち星に恵まれないのが開幕投手を務めた九里(同1勝)だった。対するファイターズは北山亘基、伊藤大海、鈴木健矢を立てた。面白いもので快勝したのは「ハーラートップ&4連勝中の床田」vs「5/15以来、久々登板の北山」の第1戦だった。
マツダスタジアムはビジター応援席を除いて360度カープファンで真っ赤に染まる。僕は内野席だったが、もちろん周囲はカープファン一色だ。僕ひとりだけファイターズの青いビジターユニで目立つ(文字通り「異色」だった)のだが、広島の皆さんはとてもフレンドリーで、3日間とも試合後半には野球談議をする感じになった。興味深かったのはカープファンがファイターズの選手にどういう反応をするかだった。考えてもみよ、オールスター投票でファイターズの選手ばかりがトップを走っているのだ。第1戦、スタメン発表が終わった途端、近くの席で「うわ、ハムの選手、万波しか知らーん」と素っ頓狂な声が上がったのが忘れられない。そうなのだ、万波中正は去年のオールスターで2戦連続ホームランを放ち(MVPにも選ばれた)、印象がある。だけど、他の選手は? 「マルティネスって中日におった?」「ベンチにおる八木(裕)ってカープキラーの? 日ハムでコーチやっとるん?」 そんな感じだ。もう、愉快なほど知られていない。そりゃそうなのだ、今年出てきた選手がズラッと並んでいる。
第1戦の面白かったのはその「万波しか知らん」打線に床田があっさり攻略されてしまったところだ。7回投げて9被安打、4失点。打者一巡目はパーフェクトに抑えたが、2巡目からフツーに打たれた。広島のファンは目が肥えてるなと思ったのは、試合展開的には負け試合で面白くないはずなのに「田宮いうんはきれいなバッティングするのう」「水谷カッコええのう」と見てくれてたことだ。第2戦のときには早くも昨日見た印象を語ってる人がいた。いやー、覚えてくれたのかと嬉しかったのだ。
強烈なインパクトを残したのは水谷瞬と田宮裕涼だったようだ。水谷はこの連戦の時点で「交流戦首位打者」、田宮は「パのリーディングヒッター」だった。水谷は打席に入る前、ぴょんぴょんジャンプするルーティンだ。それがバネと野性味をカープファンに印象づけた。「あの子はどこにおったん?」「ソフトバンクです。去年まで1軍経験がなかった選手です」などと説明していた。あと驚かれたのは「田宮は去年まで2軍のキャッチャーでした。年俸700万です。カープでいえば小園海斗と同じ代です。あの年、ハムは吉田輝星、野村佑希、万波中正、柿木蓮と甲子園の星を獲ったんですよ。で、同期で田宮だけ甲子園出てないんです。だけど、努力して今日は4番抜擢です」という話。6/6の第3戦、初「4番田宮裕涼」を生で見られたのはファン冥利だった。試合前、ベンチから出てひとりずっと素振りをしていた。燃えていた。
※ちなみにこの試合、田宮は4打数2安打ながら打点0、カープ4番末包昇太(4の1ながらホームランで2打点)と好対照だった。僕は田宮は悔しかったと思う。彼が「4番の責任」を経験してくれたことを大収穫としたい。