オールスター初出場の水谷瞬は復調のきっかけ。チームは「エンジン再点火」へ【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#229】
先日球団に招かれ、50周年シリーズの企画としてトークショーを行った。このシリーズでは疲れの見えていた選手たちが復調のきっかけをつかんだ。若きチームがどう後半戦を戦うのか、とても楽しみだ。
2024/07/21
産経新聞社
これから強い「大人のチーム」へ
面白いなぁと思ったのは16日、延長サヨナラの試合だ。7回、郡司裕也タイムリー&レイエスの逆転3ランでスコアは4対3、そのまま8、9回をセットアッパー、クローザーに託し、逃げ切りをはかるところだった。が、8回登板した杉浦稔大がつかまり、4対4で4延長戦に突入する。球場で見ている分にはベンチ内のことはわからないから、僕は池田隆英に何かあったかなと思った。前回登板したときの池田は球威もあり完璧だった。普通に考えたら8回池田、9回田中正義で1点差逃げ切りだ。それを杉浦にしたということは池ちゃんに異変が?、と想像したのだ。ところが池田は10回に登板して、ピシャッと三凡に退け、勝ち投手になっている。僕は元気なんだったら池田隆英に8回投げてほしかった。結果はわからないが、延長戦にもつれる可能性は低かったんじゃないかと思う。
まぁ、グウの音も出ない継投で8、9回を締め、勝ち切るのが大人のチームだろう。相手につけ入るスキを与えない。ファイターズもかつては「先行逃げ切り」型のチームで、そういう野球をした(例えば冒頭挙げた梨田監督の時代)。勝つときは可愛げなくていいのだ。他を寄せ付けない、切り札を持った野球。
が、16日楽天戦のファイターズはスキがあった。追いつかれて、どっちに転ぶかわからない試合をした。評論家筋ならそこが問題点だと指摘するだろう。サクッと終わらず、勝ち味が遅くなるとみんな疲れる。
だけど、僕は田宮のサヨナラ打を見て、結果的にこれが最上だったのではと思い直した。まず、田宮がホッとしたと思うのだ。ほぼ1軍経験のなかった田宮は今、未経験の重圧、疲れと闘っている。悩みや迷いをけんめいに振り払って、あの延長10回の打席に立った。あそこで打てて、田宮は救われたと思うのだ。そして、田宮が頑張ったことでチームがまとまった。みんなでひとつになって喜べた。つまり、ヤングファイターズは「大人のチーム」ではない。これから強い「大人のチーム」になっていくのだとしても、今は伸びしろ重視でいいと思う。失敗したり、悩んだりして、みんなで成長すればいい。そう痛感した。
そして、50周年シリーズ終盤の3試合、強く印象に残ったのは水谷瞬だった。水谷は「交流戦5冠」で大いに売り出した後、右膝裏の違和感で調子を落としている。去年まで1軍経験はゼロ(田宮は「ほぼなし」だが、水谷は「なし」)、つまり必死にかじりついているところだ。
新庄監督は休ませながら使っているが、打席で軸がブレてないのがすごい。普通は疲れるとフォームが崩れるものだ。自身のチェック項目がしっかりあるのだと思う。ソフトバンクで積み上げた技術的なアプローチを感じる。やってきたことが出ているのだ。ステップ幅、テイクバックの小ささ、インサイドのさばき。打てるボールに狙いをしぼる割り切り。
何と17日にはオールスターのプラスワン投票でDeNA、度会隆輝とともに選出され、自ら4号ソロ(先頭打者ホームラン)で祝砲を上げている。オールスターブレークは温泉泊を予定していたというが、プロとして最高の栄誉だ。出て活躍するしかない。ジェッシー、水谷瞬は「持ってる」としか言いようがない。17日楽天戦の彼は「オレはこれから駆け上がるんだ」という輝きに満ちていた。ああいうギラギラ感のある選手に大暴れしてほしい。