想像できなかった3番サード固定。万能型・郡司裕也の打席を見るのが楽しい理由【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#230】
今シーズン、郡司裕也がここまで活躍を見せるとは誰が予想できただろうか。右打ちなどの細かい繋ぎの打撃ができるだけではなく、先日のサヨナラホームランのような一発長打の魅力もある。野球頭がいい選手だ。
2024/08/04
産経新聞社
バッティングに引き出しがある
僕は郡司の打席を見るのが楽しい。本当に中日で1軍で使われなかったのが不思議なくらいバッティングに引き出しがある。右打ちができるし、一発長打で決めにいくこともできる。送りバントやエンドランも達者だ。で、野球頭がいい。状況を読んで、狙いを持ったバッティングをする。かつてのファイターズなら金子誠を見るイメージだ。「このイニング、このシチュエーション、この投手なら何を狙うだろう?」と彼の考えを想像しながら見ている。
いや、別の説明をしよう。読者はこういうことを思ったことがないか。打線の並びで、ヒットや四球の走者を置いてレイエスに打順がまわるのだ。無死一塁で打者レイエス。これは何も動きようがないだろう。レイエスがデカいの打ってくれたらいいなー、というだけ。では、無死一塁(または1死一塁)で万波中正はどうだろう。下手に動いて盗塁死なんかして、2ランだったのにソロホームランになったらもったいないじゃないか、走者置いて万波も動きにくい。つまり、打つだけ。じゃ、打者マルティネスならどうだろう。これも同様ではないか。まぁ、マルティネスの送りバントは考えにくい。結局、何か仕掛けられるのは松本剛と郡司の打席なのだ。2人とも技術の引き出しがある。2人とも「単純にいい当たりをしよう」という考えではない。「快音を残し、真っ芯で捉える」もいいが、「ヘンな音がして、野手のいないところに落ちる」もいいのだ。「進塁打や送りバントで投手にプレッシャーをかける」もいい。
まぁ、だけど印象度から言えば繋ぎのバッティングや進塁打より、8/1、オリックス17回戦のサヨナラホームランだろう。本当に忘れられない。バーヘイゲンがつかまって大乱戦になったこの試合、9回1死(走者なし、スコア6対6)からレフトにホームランを叩き込んだのは郡司裕也だった。この試合はマルティネスの11号2ランも飛び出していて、中日にお歳暮(ハム詰め合わせ?)を贈りたいぐらいのものだったが、やっぱりサヨナラホームランは別格だ。
時が止まるのだ。大飛球がレフトスタンドに吸い込まれる。郡司は走りながらそれを見て右拳を握る。エスコン観客席は「やったー!」「うわあー!」。みんな叫んでいる。チームメイトがベンチを飛び出す。バファローズナインが悔しそうに下がってくる。だけど、郡司がひとつひとつベースを踏み、ダイヤモンドを一周するまですべての時間が停止する。千両役者。全員が郡司だけを見ている。初めてのサヨナラホームランだったというが、たぶん快感に酔いしれただろう。
「最初は出塁しようと思ってたんですけど、球数重なっていくうちにホームランが見えたので、狙いました」(ヒーローインタビューでのコメント)。彼の野球頭の良さ、狙いを切り替えられる強みが端的に語られている。球団史上100本目のサヨナラホームランだったらしい。万能型3番。郡司裕也の活躍から目が離せないのだ。