中日・大野VS西武・秋山、同級生対決。勝負の4打席にあったそれぞれの悔恨【中島大輔ONE~1対1をクローズアップ】
侍JAPANであり、両リーグを代表する好投手と好打者が相まみえた。中日・大野雄大と西武・秋山翔吾。6月11日、西武プリンスドームで繰り広げられた2人の対決は技術と技術がぶつかった濃密な4打席だった。
2016/06/13
お互いをリスペクトする2人
145球の熱投で完投勝利を収めた中日の左腕エースは、宿舎に帰るチームバスに乗り込む直前、勝利投手に似つかわしくなく苦々しい表情を浮かべた。
一方、唇を噛み締めながらクラブハウスへの階段を上った西武の1番打者は、ドアの奥へ消える直前、どこかすがすがしいような顔を一瞬見せた。
大野雄大と秋山翔吾。
1988年生まれの二人は6月11日に行われた西武対中日で4度対戦し、ともに「悔しさ」を口にしている。その感情こそ、二人の同世代が一流プロに相応しい高次元の対決を繰り広げた証だった。
「左で、あれだけ力のある真っすぐを投げるピッチャーはそんなに多くない。希少なピッチャーですね」
試合前、大野の印象について秋山はこう語っている。
ともに侍ジャパンのメンバーとして昨年11月のプレミア12を戦った二人は、大学生の頃から全国大会で顔を合わせてきた。今や名実ともに球界トップレベルの選手となり、互いに一目置いている。
チームスポーツという点で、勝負に勝ったのは中日の大野だった。試合前から完投を宣言し、有言実行を見せたのはさすがチームのエースと言える。
試合後、秋山は賞賛を送った。
「あの球数で最後まで投げ切った。(9回に)うちの代打陣が出てきた中でも、3人で抑えて帰った。勝負どころの考え方だったり、割り切りだったりは、僕はピッチャーじゃないのでわからない部分もあるんですけど、すごいなと思います。年に1回、当たるか、当たらないかもわからないところで対戦しているところから言えば、今年対戦できたのは良かったと思います。まあ、やられた感は正直あるので、悔しさはありますね」
2点を追いかける西武は9回、コンディション不良でスタメンを外れた栗山巧、中村剛也と代打攻勢を仕掛けた。しかし、大野に打ち取られて敗戦まであと1アウトに追い込まれる。打席に金子侑司が向かい、秋山はネクストバッターズサークルで出番を待った。
対して、大野は最後まで冷静だった。
「最後も(秋山に)回したらまずいなと思っていました」
大野は金子侑をセンターフライに打ち取り、秋山にこの日5度目の打席を回すことなく勝利を手繰り寄せた。分業制が当たり前となっている現代野球において、145球を投げての完投は見事の一言に尽きる。
秋山もそうした言葉を並べると、クラブハウスへのドアに入る直前、どこかすがすがしい表情を浮かべた。
「ランナー1塁で(大野と)顔が合って、1度も打たせたくないような顔をしていました。聞いてみてください」
この日、秋山の放ったヒットは1本のみだったが、大きな価値のあるものだった。
0対0で迎えた3回、先頭打者の金子侑が四球で塁に出ると、秋山に2打席目が回る。考えるべきは、右方向に打って金子侑を進塁させることだ。
「大野が外のボールをいい角度で投げていたので、ちょっとベースに寄りました。(ランナー)1塁だったので、引っ張れるボールをと思っていました」
1ボール、1ストライクからの3球目、139kmのストレートが真ん中に来たが、秋山はファウルにする。「仕留めなきゃいけないですね」と振り返ったように、甘いボールだった。引っ張ろうという意識があったから、タイミングが早く1塁側へのファウルになった。これで2ストライクに追い込まれる。
1打席目を振り返ると、4球目の内角高め147kmストレートをファウルとした直後、5球目は外角低めいっぱいのスライダーに空振り三振を喫している。この残像は、同じように追い込まれた2打席目にもあったはずだ。
そうして迎えた4球目を仕留めたところにこそ、秋山が昨季216安打の日本記録を樹立した技術と思考が集約されている。
「追い込まれたので、その後はなんとか食らいついてじゃないですけど、いろんなボールをイメージしながらという感じでついていった結果、あそこに行ったかなという感じです」
大野の投じた4球目、真ん中低めにフォークが来ると、秋山はライト前に運んだ。これで無死1、3塁とチャンスが拡大され、浅村栄斗の犠牲フライによる先制点につながっている。
先に1点をつかみとる過程で大きな仕事を果たした秋山が、自身のヒットの意義を確認したのは1塁上だった。マウンドの大野と目が合うと、「1度も打たせたくなかった」という顔をしていたのだ。
試合後、大野はその気持ちを認めている。
「(秋山は去年)216安打打っているバッターだなと改めて感じました。ヒットを打たれたのは悔しかったです」