西武・多和田プロ初勝利の裏にあった、ヤクルト山田との真っ向勝負――課題と手ごたえの勝負球【ONE~中島大輔 この1球をクローズアップ】
6月19日の東京ヤクルト対埼玉西武戦、埼玉西武の先発はドラフト1位ルーキー・多和田真三郎。今回は、5回裏1死1、3塁でバッターは山田哲人。カウントは2-2から投じた1球だ。
2016/06/21
「もっと勝てるピッチャーになる」潮崎哲也コーチ
この1球について、潮崎コーチはこう見ている。
「いいボールだったよ。1個分くらいシュートして中に入っているかもわからないけど。でも、高さも申し分ないくらいのところだから。あの犠牲フライは仕方がない」
対して、多和田の見解はこうだ。
「球界を代表するバッターです。若干中には入りましたけど、本当にいいバッターだなと思いました」
同点にこそされたものの、アウトを一つとり、納得できたボールだったと感じているのだろう。
6回表の攻撃で多和田は代打を送られてマウンドを降りたが、この回に味方が2点を勝ち越し、プロ入り初勝利が舞い込んだ。
「うれしいことはうれしいですけど、次は自分の力で勝ちたい。今日は野手の方々に感謝の気持ちでいっぱいです」
5回93球を投げて被安打6、5失点。本人が納得いかないのは当然だろう。
方や、潮崎コーチは今後の上積みを口にした。
「前回良かったから、今日はご褒美みたいなもの。合わせ技1勝みたいな感じ(笑)。きっちり投げていて、(ヒットを)打たれてない割には相手に点が入りすぎた。でも、しっかりピッチングできるから、もっと勝てるピッチャーになるね」
多和田自身が反省の弁ばかり口にしたように、プロ初勝利は野手に助けられた側面が大きい。
ただし、勝負どころで迎えた山田に対し、意図のあるスライダーで追い込んだ2球は見事だった。同じ5回には、序盤から指に引っ掛けていたスライダーが甘くなって大引に打たれており、山田への2球のみで修正能力とまでは言い切れないが、最大のピンチでしっかり投げたのはさすがドラフト1位の一言に尽きる。
加えて言えば、その直後に逆転劇が起こったように、運を呼び込むのも勝てる投手の条件だ。
「(初勝利で気持ちは)多少楽にはなると思いますけど、立場的にもあまり後がないと思うので、1戦1戦頑張っていきたいと思います」
神宮のレフトスタンドに残った西武ファンに挨拶へ行く前、多和田は引き締まった表情でこう語った。ドラフト1位ルーキーにとって次回への課題が残ると同時に、大きな可能性の片鱗を見せた初勝利だった。
(取材協力:氏原英明)