伏見寅威の価値。「勝てる捕手」が魅せる隠れたファインプレー【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#233】
9月11日の西武戦はレイエスのサヨナラ弾で劇的な勝利を収めた。この勝利を呼び込んだ背景には、まさに今のファイターズを象徴する素晴らしい”守備”がある。
2024/09/14
産経新聞社
注目すべき伏見の対応力
ただ何度も映像を見るうち、別のヒーローの姿も浮かび上がってきたのだ。それは伏見寅威だ。件(くだん)の長谷川とのクロスプレー、本当に紙一重のきわどいアウトをもぎ取っているのだが、万波の強肩だけでなく伏見の対応力がすごいのだ。万波の送球はほんの少し逸れた。しかも、伏見の手前でショートバウンドした。それを逆シングルで捕球し、ホームベースへ身体を投げ出すようにしてタッチプレーに行く。対応力というか「情報処理力」のような感じだ。走者長谷川のスピード、スライディングの態勢&コース、万波送球のスピード&コース、自分の身体の入れ方etcを一瞬で情報処理し、アウトを取りに行く。ヘッドスライディングした長谷川の手はホームベースに触れなかった。これは伏見のファインプレーでもある。
ぎりぎりのところで先制失点を防いだ伏見はヒーローインタビューのお立ち台に昇らない。ヒーローはサヨナラホームランのレイエス。別の見出しになるのも「万波レーザービーム」だ。だけど、伏見は目立たないところでファインプレーを繰り返している。シーズン後半戦、実際問題、毎試合ヒーローのようなものじゃないか。バッティングも好調だが、捕手としてチームを勝たせる力が図抜けている。フレーミングやストッピングのような技術がまず高い。で、そこに情報処理力(相手打者との読み合い、状況判断、投手の生かし方)が乗っかる。
以前、梨田昌孝さんが田宮裕涼との捕球姿勢の違いをコメントされてたことがあった。若い田宮は今述べた情報処理力に関しては勉強中(伸びしろすごいですよ!)ではある。ただ梨田さんが言ったのは読みや配球の話ではないのだった。「伏見の構えはゆったりしている。投手が投げやすい。田宮の捕球がヘタなわけではないが、全体の印象が硬い。これは経験の差だろう」。なるほど、FAで獲る価値のあった捕手だ。俗にチームを強くするには「中心線の強化」という。その要の部分が捕手だ。「勝てる投手」がいるように「勝てる捕手」がいるのだと思う。伏見寅威はまさにそれだ。
シーズン終盤、プロ野球はそれまでのリーグ戦とは別の興趣を加える。来たるべきポストシーズンの戦いへ向け、チームのブラッシュアップが始まるのだ。短期決戦だ。使える先発は揃うか。リリーフは整備できたか。誰がどこを守り、どこを打つか。これまでは成長に期待してガマンの起用があり得たが。短期決戦はガマンしてると終わってしまう。誰を使うか(誰を切るか)開幕以上にシビアな線引きが始まる。
今回、伏見の話を書いたからじゃないが、僕はやっぱり守備重視のイメージをしてしまう。西武22回戦では10回表、上川畑大悟が素晴らしいセカンド守備を見せたが、ああいうのを見ると「お、短期決戦で使えるな!」とゾクゾクする。当の試合の勝敗を離れて、CSや日本シリーズで「誰をセカンドで起用するか」を夢想してしまう。ここからのファイターズが楽しみだ。