ライオンズ・渡辺直人、窮地の時こそ必要とされるベテランの力。プロ10年目の男が見せた存在感【中島大輔ONE~この1打席をクローズアップ】
誰しもがそのプレーを覚えているわけではない。けれども、試合を振り返る中では、決して、外すことができないプレーがあった。6月25日の西武―ロッテ戦。10年目のベテラン渡辺直人が難なくこなしたその一仕事は、試合を大きく左右した。
2016/06/27
いろんな場面で仕事を果たす
長いシーズンの中には、その後の戦いを大きく左右するような試合がある。思うように状態の上がらない西武にとって、本拠地で迎えた6月25日のロッテ戦がまさにそうだった。守備の乱れから苦しい展開になった一戦を、土壇場で救ったのはベンチに控えるベテランたちだった。
ヒーローとしてお立ち台に上がったのは、ともに代打で結果を残した二人だ。8回に2点同点タイムリーを放った上本達之と、10回にライト前タイムリーで試合を決めた坂田遼。
そしてもう一人、見逃せない仕事人がいる。前日に1軍再昇格を果たしたばかりの35歳、渡辺直人だ。
「自分は何でも屋という感じ。いろんな場面で、その仕事をしっかりやりたい」
この日の試合前、淡々と語った短い言葉には、渡辺のプロフェッショナルとしての矜持が込められている。
与えられた場所で確実に仕事を果たすため、勝負の場に立つまでに黙々と準備を整える――だからこそこの右打者は、楽天、DeNA、西武と3球団を渡り歩き、ベテランとなった今も変わらぬ存在価値を発揮し続けているのだ。
殊勲打の坂田が歓喜の水シャワーを浴びた延長10回、サヨナラのホームを踏んだのは渡辺だった。一死から打席に向かうと、ロッテの南昌輝が投じた143kmストレートをセンター前に弾き返す。真ん中高めのボールに対し、センターから逆方向中心という持ち前の打撃で出塁した。
「(ボールに)力のあるピッチャーなので、甘い球が来たら積極的に振っていこうと思っていました」
確かに甘いボールだったが、初球から自身の打撃をできるのは準備の賜物と言える。
「いつもそういう気持ちでいますからね。悪い結果になるときもありますけど、後悔しないように打席に向かいました」
この前の打席は、テレビのハイライトや新聞にはなかなか取り上げられないようなものだった。だが絶対に失敗の許されない場面で、100点満点の仕事を果たしたのは見事の一言に尽きる。