「まだ見たことのない新庄剛志」を。CSで求められる勝負師の采配【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#234】
就任から3年、着実にチームを強化してきた新庄監督。レギュラーシーズンを2位で終え、6年ぶりのクライマックスシリーズに挑む。果たして、短期決戦でどう勝利に導くか。
2024/10/12
産経新聞社
ポストシーズンの戦いで選手は一気に成長
CS第1ステージ初戦前夜にこれを書いている。加藤貴之、佐々木朗希の予告先発が発表になった。ファイターズにとっては6年ぶりのポストシーズンだ。胸が高鳴る。もちろんファンだからパの強敵たちを撃破し、日本シリーズで栄冠に輝くのを夢見ているけれど、もっとリアルに今、僕の胸を突き上げてくるのは「野球が見たい」という衝動だ。それはもう強烈な思いだ。野球が見たい。明日から最高の野球にありつける。野球を見せてくれ。ファイターズはずっと低迷が続き、ポストシーズンのしびれる戦いと無縁だった。
それがついに明日から始まる。興奮して眠れそうにない。ポストシーズンの戦いは密度が濃い。ワンプレーワンプレーの重みがレギュラーシーズンとは違う。ひとつ流れを失うとシリーズすべてを失う。野球の面白さが濃縮されている。僕は愛するファイターズの選手らがずっとその最高の戦いに触れられずにいるのが不満だった。だってどえらい経験だ。どえらい楽しさだ。たぶん皆、とんでもなく疲れる。そして力をつける。野球人として、あれを味わっているかいないかは決定的だ。もしかしたら一試合で何年分飛躍する。
僕はファイターズをあの場に立たせたいとずっと願ってきた。それは単純に「ファイターズのAクラス入りを願ってた」というのとちょっと違う。もっと濃いファイターズの野球が見たかった。プレッシャーのなかで自分の知ってる選手らがどんなプレーをするか。のるかそるかの場面でひいきの選手がどんな姿を見せるか。平場の一球とは一球が違う。平場の一打とは一打が違う。選手はこれまで見せたことのない姿を見せる。
2024年のファイターズは若い力の台頭が特徴だ。札幌ドーム時代のオーラス、主力を外に出して、「ほとんど鎌ケ谷?」というスタメンを組んだ。そのなかから万波中正、清宮幸太郎、田宮裕涼らが育ち、ドラフト(&現役ドラフト)、トレードで層を厚くし、競わせる形で水野達稀、上川畑大悟、郡司裕也、水谷瞬を鍛え上げた。このメンバーがポストシーズンのプレッシャーのきついなかでどんなプレーを見せるか楽しみじゃないか。どんだけ学びがあるか。どんだけ楽しいか。
いや、もちろん僕は古手のファンだから(苦しんだ)松本剛や淺間大基が大舞台で真価を発揮するのも願っている。中島卓也も出してほしい。だけど、チームの未来を担う「若い力」の躍動が楽しみなのだ。彼らはこの経験を通じて、野球のえげつなさ、面白さをたっぷり味わうと思う。
「選手はこれまで見せたことのない姿を見せる」はすなわちファン冥利だ。まだ見たことのない加藤貴之。まだ見たことにないレイエス。まだ見たことのない石井一成。まだ見たことのない北山亘基。まだ見たことのない野村佑希。何が起こるかわからない短期決戦で、僕らは一世一代のドラマが見たい。それを見届けたい。