チームを生かすも殺すも、監督の言葉次第。技術と同様、言葉も選び抜いた落合博満氏【横尾弘一の野球のミカタ】
指導者の言葉が、選手にとっては意図通りに受け取られないことは多々ある。だからこそ、落合博満GMは、その言葉を特に大切にしている。
2016/06/28
言葉によって自信を失い、消えていった選手も
「我が巨人軍は永久に不滅です」
長嶋茂雄は、そう言ってユニフォームを脱いだ。80余年に及ぶプロ野球の歴史では、数多の名場面とともに、その当事者が発した言葉もファンの記憶に刻まれている。そうした意味で、スポーツと言葉は切り離せない関係にある。
また、最終的に勝負を決するのは技術だが、その技術を伝承するのも言葉だ。中日ドラゴンズ監督時代、滅多にコメントを出さないことで知られた落合博満GMも、言葉を特に大切にするひとりである。
落合がロッテへ入団した1979年、自主トレのフリー打撃の際に、当時の山内一弘監督と金田正一前監督が、並んで落合のバッティングを見ていた。そこで金田が「この打ち方ではプロで通用せんぞ」と切り出すと、山内も「そうだね」と相槌を打ったという。その会話が耳に入った落合は、「監督が通用しないと思う選手をドラフト指名するなよ」と憤慨した。そんな記憶を振り返り、落合は言う。
「私は、こういう言葉に対して『ナニクソ』という気持ちになり、誰にも文句を言われない数字を残すことができた。けれど、同じような言葉に自信を失い、消えていった選手も少なくないんだよね」
高い実績や一定の地位にある者の言葉は、発した側に重大さの認識がなくても、受け取る側にとっては人生さえ左右しかねない重みを持つ場合がある。
叱咤激励のつもりでかけた言葉も、受け取る側がその意図を正しく感じ取ることができなければ、単なる言葉の暴力になってしまう。それはメディアの報じる表現も同様。現役時代、自分へ向けられた言葉に嫌というほど心を痛めてきたからこそ、落合監督は一方的な親心で選手に言葉をかけたり、ましてやメディアを通じて自分の気持ちを伝えようとはしなかった。
「どうしても言葉で伝えたいことがあれば、一対一のコミュニケーションにする。そして、相手が理解したとわかるまで、何度でも同じことを伝え続ける。監督になった時、関根潤三さんから『鶏は3歩歩くと忘れるというが、選手は3歩歩く前に忘れる。また、300回言っても覚えられない選手には、301回伝える辛抱強さを持て』と言われたよ(笑)」