チームを生かすも殺すも、監督の言葉次第。技術と同様、言葉も選び抜いた落合博満氏【横尾弘一の野球のミカタ】
指導者の言葉が、選手にとっては意図通りに受け取られないことは多々ある。だからこそ、落合博満GMは、その言葉を特に大切にしている。
2016/06/28
言葉一つで副作用が生じる危険性も
言葉に細心の注意を払うのは、試合の中でも変わらない。
例えば、相手投手の低目を突く変化球に自軍の打線が翻弄されていると仮定する。打者が一巡したあたりで円陣を組むと、多くの指導者はこう指示をする。
「低目の変化球には、絶対に出を出すな」
選手たちも、この言葉を強く意識して打席に立つ。ところが、「低目に手を出してはいけない」と意識するあまり、反対に低目を振ってしまったり、低目に投げ込まれるストライクのストレートに手が出なくなったりという“副作用”も生じてしまう。このようなケースについて、落合はこう言う。
「低目の変化球を見極めさせたい場合には、あえて低目という言葉を避けるべき。つまり、『高目のストレートを狙っていこう』とか『高目のボールに絞れ』と伝えればいいんじゃないか。『それで低目を見送って三振しても構わないから』とつけ加えてやればなおいい。指示を徹底したい時は、『~をやめろ』ではなく、『~をやっていこう』という表現のほうが効果は出るんだよ」
技術と同様に、言葉についても考え抜く落合らしい配慮だろう。監督の言葉ひとつで、選手の動きは決まる。チームを生かすも殺すも、監督の言葉次第と言ってもいい。活字や電波だけではなく、発した言葉がインターネットでも瞬時に全世界へ発信される現代、優勝を目指してチームを率いる指揮官は、言葉の力について再認識し、何を話し、伝えるべきか、よりデリケートに考えなければならない。
落合博満氏のスカウティング・育成論――“減点法”で決めつけず、小さな可能性にも着目【横尾弘一の野球のミカタ】