中日・吉見、投球フォームを戻したのは覚悟の表れ。結果の数字がともなってこそ真の「復活」【小田幸平の眼】
肘の故障から完全復活を期する中日・吉見一起投手。ここまで3勝2敗ながら、中6日のローテーションを守って投げ続けている。吉見投手は「復活」と言えるのだろうか? 現役時代に吉見投手とバッテリーを組んでいた評論家の小田幸平氏に話を聞いた。
2016/07/03
吉見の1球1球には意味がある
――吉見一起投手ですが、ここまで10試合に投げて3勝2敗、防御率2.78という成績です。故障の再発も心配されていましたが、ここ最近は中6日のローテーションを守っています。小田さんは吉見投手のピッチングをどうご覧になりますか?
率直な気持ちとしては「戻ってきてくれて良かった」ですね。やっぱり他のピッチャーと違うと思うのは、1球1球に魂がこもっているところです。結果は別として、1球1球にちゃんと意味がある。すべてが勝負球で抜いた球が一つもない。「これを打てるものなら打ってみろ!」という気迫が感じられますね。
――全部の球が相手を抑えるためであったり、その伏線になっていたりするわけですね。
そうそう。他の投手がいい加減に投げているというわけではないのですが、吉見に関してはその部分がすごい。100球も神経を使って投げられるわけはないと思いますが、ちゃんと神経を使って投げているように見えるんです。1球1球がこの試合を左右する球のように感じますね。
――それは小田さんがバッテリーを組んでいた頃から変わりませんか?
まったく一緒だね! 受けていても、見ていても、それは感じます。吉見は150キロ近くの球が投げられるピッチャーだったのに、ピッチングスタイルを変えて今のようなコントロールを重視するピッチャーになったんです。「この道を進んでいくんだ」という覚悟があるんですよ。その覚悟が球に乗り移っているんじゃないのかな。
――10試合で3勝2敗というここまでの結果についてはどう考えますか?
まだまだ行けると思いますよ。打線と噛み合わなかったこともあって、勝ち星に恵まれていませんでしたね。防御率が悪くても、勝ち星の数が上回っている投手はいますしね。そこはめぐりあわせだと思います。でも、ピッチング自体の安定感は抜群ですね。
――少し気になるのは、投球フォームを変えたところです。初登板の4月9日の巨人戦から5月4日の阪神戦まで、中10日以上の間隔を空けながら3試合に先発しましたが、0勝1敗、防御率4.76と結果が出ませんでした。そこで、肘に負担がかからない新フォームから、以前のような肘に負担がかかるフォームに戻したところ、結果が出るようになったということです。これも吉見投手の覚悟の表れでしょうか?
その通りだと思います。肘に負担がかからない投げ方というのは、結局は逃げ道なんですよ。だけど、吹っ切れたというか、「俺の投げ方はやっぱりこうなんだ」と思ったんじゃないかな。僕は、自分の投げ方に戻して絶対に良かったと思いますよ。年々衰えていく部分はあると思いますが、まだまだ老けこむ年じゃない。スライダーの曲がり具合もいいし、今の投げている姿を見ると大丈夫だと思います。
――それを聞いて安心しました。
吉見には、無理せず、急いでやってもらいたいですね。「無理せず」というのは、肘の調子をケアしながら投げて欲しいということ。「急いで」というのは、チームの状況がけっして良くありませんから、急いで勝ち星を挙げてもらいたいということです。「あなたが急いで活躍しないといけないよ」と。吉見はそういう選手なんです。