ヤクルト由規、1771日ぶりの復活マウンドへ「1球投げたら世界が変わる気がする」【新・燕軍戦記#27】
1771日ぶり──。実に5年近い歳月を経て、東京ヤクルトスワローズの由規が明日、本拠地・神宮球場のマウンドに上がる。それはかつて「史上最速」と謳われた右腕の中で止まっていた時間が、再び動き出すことを意味している。
2016/07/08
菊田康彦
「僕は11年で時間が止まっている」
長いリハビリを経て実戦に復帰したのは、14年6月14日のフューチャーズ戦(戸田)。いきなり155キロを計測して「スピードを出すことが目的ではないですけど、1つのバロメーターとして、モチベーションの1つとして自信にはなります」と、日焼けした顔に笑顔を浮かべた。
だが、近づいたかと思えば遠のくのが一軍のマウンドだった。8月6日のイースタンリーグ、巨人戦(東京ドーム)で、実戦では1069日ぶりの白星を手にしたものの、その後は右肩の違和感で登板なし。翌15年は3年ぶりに一軍のキャンプに参加し、オープン戦では最速151キロを記録。二軍で登板を重ねて、今度こそ神宮のマウンドに立つ……はずだった。
しかし、イースタンで3試合に登板したところで、右肩の張りのために離脱。「今年中に一軍で投げる」という強い決意で8月下旬に復帰したものの、この年も一軍登板はかなわず「一番悔しいシーズンですね。(一軍で)投げられるんじゃないかっていう期待もあったし、途中までは良かったんで……」と、唇を噛むしかなかった。
育成選手として、背番号121で再スタートを切った今シーズンは、宮本賢治二軍監督の提案により中継ぎとしてファームのマウンドに上がったこともあったが、結局は己の意思を貫いた。
「宮本監督も僕に気を使ってそういう提案もしてくださったし、けっこうな決断だったと思います。でも『先発でやりたい』って言った時も快く受けてくださったし、こうやって(一軍で)先発で投げるっていうのも1つの恩返しだと思います」
先発ではイースタンで8試合に投げて2勝3敗、防御率3.75。6月22日の巨人戦(ジャイアンツ)では5回で98球を投げて8つの三振を奪い、3安打、2失点に抑えると、ついに支配下選手登録にゴーサインが出た。
「去年、チームは優勝したかもしれないですけど、僕は11年で(時間が)止まってるんで」
埼玉県戸田市にあるファームの施設で由規がそう話したのは、支配下選手登録を目前に控えた6月下旬のことだ。
「11年も自分がケガで離脱して優勝を逃してるんで、それを取り返すぐらいの気持ちでやりたいなっていうのはあります」
チームは現在、セリーグの最下位に沈んでいるが、3位との差はわずか3ゲーム。少なくともクライマックスシリーズ進出は、まだ十分に可能性がある。もちろん由規にとっては、最大10ゲームの大差をひっくり返されて優勝を逃したまま時が止まった11年の悔しさも、忘れることはできない。その年以来の一軍マウンドに上がる今シーズン、なんとしても自らが『救世主』になるつもりだ。
「1球投げたら世界が、景色が変わる気がするな……」
一軍での登板に思いをはせ、そう呟いた由規。およそ5年ぶりに上がる神宮のマウンドから1球目を投じたその瞬間、彼の中で長らく止まっていた時間は、確実に動き出すはずだ。それは燕の大逆襲の始まりを告げる合図になるだろうか──。