達孝太の「ドライブライン」参加に見る「育成」の新トレンド。選手育成に長ける球団の真骨頂をみせよ【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#241】
ファイターズはこれまでドラフトで原石を指名して、「育成」で選手の力を引き出してきた球団である。近年、科学的アプローチにより多くのデータを選手自身や球団が共有できるようになったが、そのようななかでコーチの果たすべき役割は何なのだろうか。
2025/01/26 NEW
産経新聞社
自費で「ドライブライン」へ
1月下旬、自主トレ最終盤はネタ枯れの時期だ。ほぼどの記事を見ても、新シーズンへ向けて各球団の選手が抱負を語っている。といってキャンプ前なので具体性は薄い。カープ新井監督の護摩行みたいなに「絵」になることをしてくれればテレビなど大変ありがたいのだ。こういう時期は大きなネタがあるほうがむしろイレギュラーだから。
ファイターズは2ネタあって、ひとつは郡司裕也の結婚というグッドニュース(おめでとうございます!)、もうひとつは清宮幸太郎のコンディション不良(左手指負傷?)による大分自主トレ離脱というバッドニュースだった。幸い清宮は即・帰京し、状態確認した上で鎌ケ谷で自主トレを続けている。去年のキャンプ直前にも左足首関節捻挫をやって出遅れているから、皆、大変心配した。今のところ大丈夫そうな気配だ。何か清宮は春先、ケガするんだよなぁ。確かキャンプ&練習試合と絶好調ですべり出し、オープン戦で骨折して一からやり直しになった年もあった。
で、ネタ枯れということはフリーハンドで書けるということだ。こういうときこそ、普段から考えていることを書きたい。ここ数年、僕がずっと考えているのはプロ野球におけるコーチの役割変化だ。
例えば2021年のドラ1、達孝太というピッチャーがいて、まだほとんど1軍実績はないけれど、鎌スタで見る度、本当に魅力があるなぁと思っている。大阪府堺市出身、20歳、身長194センチだから、新人合同自主トレ中の190センチ超・高身長ルーキーズのさきがけといっていい。その達孝太が今オフ、渡航費と合わせ約700万円(およそ5万ドル)の自腹を切って米アリゾナ州の動作解析施設「ドライブライン」の門を叩いた。達の年俸(推定約1000万)を考えれば大きな出費だが、それで活躍できるなら有意義な自己投資だ。
「ドライブライン」は大谷翔平や清宮幸太郎、万波中正らが利用していることでファイターズファンの間にも名前が通っているだろう。2012年、カイル・ボディ氏が立ち上げた施設だ。「モーション・キャプチャー・ラボ」(身体にマーカーをつけ、20代ほどのカメラで動作解析をする」の効果で、DeNAでも活躍したトレバー・バウワー投手のパフォーマンスを向上させたことでつとに有名だ。
プロ野球は科学的アプローチの導入でデータが取れるようになり、選手自身がそのデータをフィードバックし、使う時代になった。例えばトラックマン、ラプソードといった機器で投手は球の回転数を計り、打者は打球角度を確認するようなことだ。不調の投手はブルペンで一球一球、回転数を確認できる。かつてはブルペン捕手がズバーンとミット音を響かせ「OK!ナイスボール」なんて言って、感覚的に把握していたものが数値で確認できるようになった。このフィードバックは画期的だった。こう身体を使って、こう投げるのがベストピッチだと自己学習できる。野球は(もともとそういう本質があるが)よりパーソナルな探求心をかきたてるジャンルになった。自分のテーマを持って、それを突き詰めるタイプが一流になれる。
「ドライブライン」のモーション・キャプチャー・ラボのアプローチはより効率的な身体の使い方を示唆してくれる。その投手がファストボールを投げる最適解、変化量の大きい落ち球を投げる最適解を示し、選手はデータを見て、動き方を学んでいく。打者なら体重移動、バットの入れ方、スイングスピードやインパクトの作り方、フォロースルーの角度などをデータを見ながら自己習得する。つまり、これはかつてコーチが経験則に基づいてやっていたことを(データのフィードバックで)自分でやるわけだ。そういう時代になった。では、プロ野球のコーチは何を教えるのだろう?