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達孝太の「ドライブライン」参加に見る「育成」の新トレンド。選手育成に長ける球団の真骨頂をみせよ【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#241】

ファイターズはこれまでドラフトで原石を指名して、「育成」で選手の力を引き出してきた球団である。近年、科学的アプローチにより多くのデータを選手自身や球団が共有できるようになったが、そのようななかでコーチの果たすべき役割は何なのだろうか。

2025/01/26

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産経新聞社



「育成」の意味を考える

 ファイターズは1、2軍ともに若いチームで、選手の「成長」が大きなキーになる。去年の田宮裕涼、水谷瞬のように誰が飛び出してくるかわからない。僕はそれが(まだ1軍で1勝しか挙げてない)達孝太であってもおかしくないと思っている。聞けば「ドライブライン」で面白いパワーカーブを習得してきたらしい。達の積極性、自発性は素晴らしいと思うのだ。
 
 かつて『マネーボール』に描かれたアスレチックスの挑戦は「数値の見方を変えて、隠れていた逸材を発見する」(例えば打率はそれほどでもないが、四球を多く選び、出塁率の高い選手を見つける)ような発想だった。ファイターズもベースボール・オペレーション・システムを導入し、救援投手マイケルを見出すなどプロ野球界に新風を吹き込んだ。以降、アナリストの存在は球界の常識になった。そして、トレンドは「逸材発見」から「育成」に大きく振られることになる。僕はファイターズの高身長ルーキーズ獲得の流れもその文脈で捉えている。データを取り、トレーニングを最適化していくことですごいパフォーマンスを叩き出す選手を育成できる可能性がある。但し、素材が必要なのだ。スピードボールや飛距離が期待できる身体のサイズ、そして強さ。
 
 そして最初の問いに戻る。この時代、コーチは何を教えるのだろう? 役割はどう変化するのだろう? ひとつサゼスチョンをくれたのは去年5月に放送された『栗山英樹が見た、”メジャーリーグのリアル”』(5/25、NHK-BS)だった。栗山氏は野球のデータ化を不可避の「進化」と捉え、立場の違う現場のコーチとアナリストがどう情報共有し、合意形成していくか、その仕組みを大リーグに取材した。これは「育成」の最前線だと思うのだ。僕はコーチ個人の経験の鋳型にはめ込むやり方も、データだけで「育成」を考えるのにも違和感がある。これは両輪だと思う。ファイターズのファームには金子千尋、佐藤友亮という優秀なコーチがおり、1軍で調子落ちした選手を次々に再生させている。
 
 これはOBの鈴木遼太郎氏(エイジェック)と話していて興味深かったのだが、「若い投手が数字ばかり気にしてしまう」傾向があるそうだ。鈴木氏の所属するエイジェックはトラックマンはもちろん、低酸素トレーニング室まで完備したプロ顔負けの社会人チームだ。が、なまじデータをフィードバックできるものだから、経験の少ない投手が自分の感覚を磨かず、一球一球データばかり見てしまうという。現役時代の鈴木氏は回転数のむちゃくちゃ多いストレートを武器にしていた。故障がなければローテ級に育っていただろう。が、その鈴木遼太郎氏が言うのだ。「回転数を上げることより、打者を打ち取るほうが正解」。
 
 それは言われてみれば当たり前だ。最高のスピンの効いた球を投げたって、プロでは評価してくれない。球速も回転数も大したことなくたって、打者を打ち取れば金が取れるのだ。自分の感覚、組み立て、駆け引き。そうしたものは経験のなかで磨くものだろう。コーチの経験値の「知恵の引き出し」は依然必要だと思う。僕は今シーズン、「育成」にこだわってチームを見ていくつもりだ。

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