「大競争」捕手陣でも伏見寅威は別格。たった1回だけのプレーに凝縮されたプロの真髄【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#242】
新庄監督4年目のキャンプはこれまでと雰囲気が違う。選手層が厚くなり、各ポジションまさにし烈なポジションの争いだ。しかしキャッチャー陣を見てみると、やはり伏見寅威の存在感が頭一つ抜けている。
2025/02/08
産経新聞社
プロ野球至高の場面の裏話
山田コーチのノックを受ける3人の技術解説していた折だ。実況の土井悠平アナが「(コリジョンルール下の)捕手の立ち位置」について質問した。中嶋さんは「そこが最初ですよね。位置取りがあって、ラインの場所、自分の場所をしっかりわかっているからタッチに行くっていうのが練習になるんで。まずベースの前に出まして、そこから何歩、何センチ動けるから飛んできたボール、ま、送球をキャッチしてタッチって流れになると思うんです」と言う。位置取り&位置確認(GPS機能?)しながら本塁送球をさばく練習なのだ。3人はマスクをつけないで練習していたが、「マスクしないと(バウンドが変わったとき)顔が逃げちゃうことがある」と教えてくれた。
そして伏見寅威にまつわる秘話を語りはじめた。2024年7月14日、ソフトバンク戦(エスコン)。7回表、「万波のバックホームで周東を刺した」有名なシーンだ。僕は球場にいたので万波中正の爆肩、周東佑京の俊足にただただ酔った。現在のプロ野球の至高の対決だった。が、その後、映像を何度も見直し、選手コメントを追ううち、伏見寅威も負けずにすごいのじゃないかと思うようになった。伏見はあの場面、肩のいい万波のところに打たせようと外角を要求している。万波、周東の能力はもちろん破格だが、絵を描いたのは伏見なのだ。で、見事な位置取り&タッチだった。読みの深さ、技量の高さはやっぱり、ハム捕手陣でひとつ抜けている。
中嶋聡さんによるとオリックス時代、伏見にあの位置取り&タッチをいつも練習させていたという。なかなかドンピシャの場面は巡って来なかったが、ずっと準備させてたという。で、あのプロ野球至高の場面でバッチリ決めてみせたのだ。果たして今、山田コーチのノックを受ける3人にその意識の高さがあるだろうか。その場にはいない伏見寅威が山脈のように聳(そび)え立って見える。
中嶋さんはもう一つ、面白い裏話を聞かせてくれた。伏見がずっと練習してきた位置取り&タッチだが、次はもう使えないのだという。ホームベースの後ろで待ち構え、捕球してそのままミットを出しアウトに取る。後ろで構えるとランナーはあそこにしか来ないそうだ。周東をアウトに取ったプレーをテレビで見て、中嶋さんは「お、伏見やったな」と思った。ここぞという場面のために準備させてきたが、皮肉にもFA移籍したファイターズで花開いたのだ。
が、中嶋さんは後日、アンパイアに呼ばれてあれは今度からダメだと言われたそうだ。後ろで構えず、ホームベースの前へ一歩出ろというのがNPBの統一見解らしい。もちろん7月14日のプレーは成立しているが、今度からダメと釘を刺されたのだそうだ。だから伏見寅威が何年もかけて準備したプレーはあのたった1回のためにあったのだ。どうですか、ちょっと震えるでしょ。