日ハム一挙8点、ビッグイニングの見立て――マリンに「魔」そのものが現れた日【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#247】
強風が吹き荒れた15日、ZOZOマリンで行われた試合は6回にファイターズが8得点を挙げて勝利を収めた。3点ビハインドからの逆転劇。あの6回、いったい何が起きたのだろうか。
2025/04/19 NEW
産経新聞社
「敵失につけ込む」では簡単に片づけられない
ロッテ1回戦が始まり、ハム先発の伊藤大海が先に失点した。どうも風の影響で制球に苦労していたようだ。ポランコに一発を浴び、その後も小刻みに2失点、スコア0対3で後半戦に突入する。ロッテ先発の種市篤暉はストレートに力があり、良い出来だった。なかなかつけ込めない。正直、ムードとしては負け試合だった。6回表、1死ランナーなしの場面までは。
それはほんの小さな綻びから始まった。1番矢澤宏太が四球で歩いた。一死1塁がら2番松本剛がライトへヒット。3番清宮幸太郎がライト前にヒット。一死満塁ができあがった。迎えるバッターは4番野村佑希。ロッテ側はコーチがマウンドに向かい、種市に間を取ってやる。と、野村は球足の速いショートゴロだ。ロッテの遊撃手、小川龍成がこれをファンブル、あわてて送球したが藤岡裕大が捕れずオールセーフ。お誂え向きのゲッツーの場面であせってしまった。スコアは1対3。なおも一死満塁で5番レイエスがライトへタイムリーヒット。スコアは2対3。6番万波中正はレフトへタイムリーで3対3。7番石井一成はレフト線にタイムリーで3対4、ついに逆転。ロッテはたまらず種市を下げ、横山陸人をマウンドへ送る。ファイターズは代打吉田賢吾。これが右中間を割る走者一掃のタイムリー3ベース、7対3。
僕は内野2階席で仲間と「イェーイ!」なんて騒いでいたのだが、騒いでいながら何というものを今、見ているんだろうと怖気だつ思いだった。矢澤の四球から潮目が変わったのだ。明らかに異常なことが起きていた。吉田賢吾の3ベースが飛び出すまで、松本剛から石井一成まですべてシングルヒット、ずーっと一死満塁が継続する「野球盤」状態だ。その間、レフトスタンド応援席は「チャンス一撃」のチャンテを続行し、延々「お前が決めろ」と叫び続けている。再び伏見に打順がまわってきて、つまり(代打吉田はあったにしても)全員が「お前が決めろ」と言われている。いやもう、誰に決めてほしいのか。僕はボクシングでロープを背負った相手にクリンチを許さず、コンビネーションの有効打を叩き込むチャンピオンを連想した。吉田の走者一掃3ベースは(カウンターが決まった)KOパンチだが、そこまではすべて有効打。
そうしたら一死3塁で9番伏見寅威(打者一巡)の場面で、風が悪さをした。フラフラッと上がった小フライをサード上田希由翔が落球、スコア8対3。1イニング8点のビッグイニングになってしまった。ホームランがなく、ほとんどが単打で8点取ってしまう展開ってあんまり記憶にない。「敵失につけ込んでビッグイニングをつくった」「一瞬のスキを逃さないのが強いチーム」みたいな決まり文句で語られるのだろうが、あの連鎖反応はそんな生やさしいもんじゃないだろうと思う。
主題は風になると思っていたが、そうではなくて「魔」そのものだった。つまり、「偶然」と「必然」がうっかり交差し、人為ではどうにもならないところにいきつく現象だ。あれは止まらない。そして奇妙なことに(9回、清宮のソロホーマーが飛び出しはしたけれど)あれっきり「魔」はなりをひそめてしまった。勝ってバンザーイではあるけれど、何か怖いものを見たと思う。野球は人間がやっているのにとんでもないものを連れてくる。たぶん一般的には「犠打ゼロの新庄流積極野球がビッグイニングをつくった」とまとめられるのだ。本当のところはどうだろう。僕は風の強い日、「魔」が球場に姿を現したと思えてならない。