今宮健太、後輩のために潜在能力を爆発させた圧巻の10球。「絶対に負け投手にしたくなかった」【夏の甲子園の記憶】
今や福岡ソフトバンクホークスの不動の遊撃手となった今宮健太。高校3年の夏、眠っていた潜在能力を遂に爆発させた。
2016/08/20
気迫の投球に込められた思い
その時だった。
今宮はタイムを掛けることなく、マウンドに駆け寄った。幼馴染でもあった後輩が半べそを掻く姿に、三塁を守るという仕事を忘れてマウンドに向かったのだった。当然、タイムを懸けていないから、塁上にいた二塁走者に三進を許すきっかけとなったのだが、今宮には、そんなことは関係なかった。
今宮はマウンドの山野に声を掛け、ベンチへ戻れと背中を押した。監督の指示ではなく、彼自身の判断で「あとは任せろ」とマウンドに立ったのだった。
そして、そこから投げる10球が圧巻だった。
第1球目のストレートは149キロ、続けて、152キロ、154キロとストレートを連発したあと、133キロのスライダーで三振。
続く打者にも153キロ、151キロ、153キロ(ファール)、154キロ、152キロとストレートで押して追い込むと、最後は129キロスライダーで三振。このピンチを乗り切ったのだった。
150キロのストレートを連発する魂のこもった10球だった。
試合は延長戦の末に敗れたが、ピッチング以外はまじめにやらない“いいかげんな”印象だった男は、最後の夏、心の底に眠っていた本能を呼び覚まし、さわやかに大会を去った。
試合後、今宮はこのときのことをこう振り返っている。
「(山野は)ずっと可愛がって来たヤツなんで。僕を慕って、明豊についてきてくれた。だから、泣いているアイツをみて、絶対に負け投手にしたくなかった」
プロ入り後、今宮は野手に本格的に専念した。
投手としての姿は見られなくなったが、常々思う。
彼の眠っている才能を呼び覚ました時、凄まじい力を発揮するヤツなのだ、と。