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「味方を助け、勝利に導く」伊藤大海こそ真のエース【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#252】

交流戦を2位で終え、好調をキープしたままいよいよ夏場のペナントレースが始まる。再開初戦、伊藤大海がまさにエースにふさわしい力投で勝利を呼び込んだ。

2025/06/29 NEW

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産経新聞社



大火事にしないのがエース

 ただアクシデントはアクシデントだが、(エラーをした)中島の四球で同点に追いついたのは良かった。持ち芸ともいえる「粘りに粘っての四球」で1点を取り返したのだ。エラーというのはしないに越したことはないが、一定の割合で出てしまうものだ。「にんげんだもの」である。大事なのは「エラーをした後」だ。勝つチームは「エラーをした後」も流れを失わない。
 
 「エラーをした後」、当の本人が頑張って名誉挽回の働きをする。これはチームのムードを良くするのだ。みんな悪気はなくても「○○さんのアレが‥」と心のどこかで思ってしまう。それを表立って言うことはないが、ベンチのどこかに滞留してしまう。それを打ち消す方法は2つあって、本人が消すのと、まわりが消してやるのだ。中島は即、自分の仕事をしてチームの空気が澱(よど)むのを打ち消した。たぶん四球押し出しで同点になった場面、みんな「ああ、さすがに中島さんだ」とホッとしたはずだ。
 
 まわりが消してやるのは、つまりカバーしてやるのだ。チーム競技はこれが重要だ。誰かのエラーを小火(ぼや)消し止める。大火事にしない。2回裏、中島エラーで失点した後の伊藤大海のピッチングを見ただろうか。さすがに失点直後は動揺の色を見せた。尚も1死1、3塁で仲田慶介。これが死球になる。1死満塁だ。踏ん張らなければ中島のエラーが大火事になってしまう。
 
 とギアを上げ、古賀悠斗、西川愛也連続三振だ。ピンチを最少失点で切り抜けた。中島のエラーをエースが吸収してやった。次の回、打席が巡ってきた中島は「自分の名誉回復」というよりも、大海への感謝を示すべく奮闘したはずだ。とても良い流れだ。勝つチームはこういう好循環を生む。
 
 そしてチームメイトをカバーし、8回127球(奪三振12!)の熱投を繰り広げた伊藤大海は真のエースとしか表現のしようがない。エースや主砲というのは単に球が速いとか遠くに飛ばせる者をいうのではない。味方を助け、チームを勝利に導く。大黒柱なのだ。少々のことでぐらぐらしない。
 
 今井達也のアクシデントを見ても、敵は相手打線だけではない。ひとつ間違ったら緊急降板したのは大海の方だったかもしれない。酷暑の夏は熱中症だけでなく、体力の消耗も心配だ。伊藤大海は優勝を目指すチームのエースだ。夏を乗り切ってほしい。この先も柱としてチームを支えてほしい。

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