新監督決定間近の埼玉西武に生じる二つの疑問。チーム再建に不可欠なフロントのビジョン
今季シーズンを終えた埼玉西武は、すでに田邊徳雄監督が辞任。編成トップが新監督人事に着手している。球界の盟主とも言われた埼玉西武だが、3年連続Bクラスに低迷している。だが、その要因は本当に指揮官の問題だけなのだろうか。チームに潜む問題点を整理する。
2016/10/01
豪華な攻撃陣が並ぶラインアップの西武。守備力を高めるのは可能か
今季の西武は、誰が見ても明らかに打撃力重視のラインアップを組んだ。そうした打線にシーズン序盤、送りバントや小技を求め、失敗を繰り返した。適性がないのだから当然であり、同時にチームの持ち味を殺す采配だった。
すでにサンケイスポーツでも報じられているが、2016年のチームでは攻撃は橋上秀樹作戦コーチ、守備は潮崎哲也ヘッド兼投手コーチが作戦を決めていた。番記者はもちろん、今年西武の取材を重ねていた人間なら大方知っていたはずのこの事実を受けてだろうか、辞任会見で田邊監督に興味深い質問があった。
”やりたい野球と現実のギャップを感じながらだったと思います。心残りはありますか?”
その返答は、実に示唆に満ちている。
「長いシーズンですから、勝ったり負けたり、いろんなことがあります。いろんな作戦を考えたり、悩んだりするなかで、8、9月の戦い方がベストだったのかなという感じはしましたね。最後の最後に強いライオンズが少しは見えたんじゃないかなと思いました」
夏場、自軍の投手陣では僅少リードを守り切れないと判断し、大量得点を狙いにいく方針に切り替えた。それが後半戦、強い西武の源だった。
来季、この打力を維持したうえで守備力を加えようとするなら、打って守れる選手をとってくるしかない。ところが、そんなメジャーリーガー級のスーパープレイヤーを獲得できる資金力はいまの西武にはない。
それならば、打力を多少落としてでも、守備を優先するのか。あるいは、現有戦力に守備力をアップさせるしかないが、1年でそれを実現するのは極めて難しい。先述したように、監督やコーチの指導には限界があるからだ。本当にチームの守備を再建しようとするなら、その方針を打ち出し、実践できそうな選手をドラフトで獲得してじっくり育成していく必要がある。
打力を多少落としてでも守備を改善しようと考えているのか、そうではないのか。守備再建を机上からグラウンドでの実践に移すには、まずは球団としての意思を示さなければならない。
チームにとって最も大切なのはビジョンだ。理念なくして組織の繁栄が不可能なのは、世界中のあらゆる会社やチームを見れば語るまでもない。
逆にいえば、プロ野球では西武と同程度の推定年俸総額ながら、日本ハムは「スカウティングと育成で勝つ!」と掲げて今季リーグ優勝を成し遂げている。理念を持ち、地道にチーム力を積み上げていけば、ソフトバンクの強力メンバーにも勝てるのだ。
一つ言っておきたいのは、いまの西武に守備再建が必要なことには完全に同意する。だが、監督やコーチという現場の責任者のクビを飛ばすだけで、成し遂げることはできない。
子どもの頃から時間をかけて築き上げられてきた守備は体に染み付いているものであり、簡単に変えられるものではない。だからこそ、本気で取り組もうとする指導者は、プロの選手に対しても基本中の基本から行わせている。
本当に守備を再建しようとするなら、まずはそれを実践できそうな選手を探し出すことが必要だ。そして、2軍でじっくり育てていく。スカウト、育成、1軍の現場が三位一体となって取り組むべきものである。
新監督候補の辻氏は根本氏の下で守備の大切さを理解し、誰よりも実践してきた人物だ。そうした旗頭を得て、チームを根本的な土台から立て直すことはできるか。
いまの西武に必要なのは、組織として生まれ変わることである。