FA渦中の岸が今季最終登板で見せた炭谷との絶妙コンビ。“最高の1球”は“最後の1球”となってしまうのか【中島大輔ONE~この1球をクローズアップ~】
9月27日の対北海道日本ハム戦。エースの岸が今季最終登板となった試合で見せたのはしびれる投球だった。試合を決めた1球をクローズアップする。
2016/10/03
ヒーローインタビューで女房役の炭谷が懇願した言葉
田邊徳雄前監督の辞任会見から6日後の10月3日、後任監督の発表が行われる。このオフに大きな注目を集めた人事が早くもひとつ決まり、次に気になるのがエース・岸孝之の去就だ。
海外フリーエージェント(FA)権を取得した右腕がそれを行使した場合、楽天が3年総額12億円以上で獲得に動くと報道されている。今季の推定年俸2億2500万円から4億円に上がる単純計算だ。
2016年シーズンは右足内転筋を痛めた影響もあり、9勝7敗と2年連続でふたケタ勝利を逃した。だが、19試合で防御率2.49という成績が示すように、素晴らしい内容の登板も多かった。
とりわけ底力を示したのが、今季最終登板となった9月27日の日本ハム戦だ。
「今年は岸さんと組むことはこれが最後ですけど、来年以降も組ませていただければなと思います」
捕手として好投を引き出した炭谷銀仁朗は、ともにヒーローインタビューを受けたお立ち台でこう語りかけている。試合前から、岸とコンビを組むのは最後になるかもしれないと話していた。想いを込めた一戦だったに違いない。
一方、岸は炭谷ついてこう語っている。
「僕のいいところを引き出してくれますし、僕もそれに応えたいと思っていつも投げています」
阿吽の呼吸を持った二人にしか見せられない1球が、今季最終登板で投げた最後のボールだった。3対0とリードした7回2死2、3塁、9番・中島卓也を迎えた場面だ。
この回に100球を超えた岸は、変化球のキレが少し落ちるなど疲労の色が出始めていた。先頭打者の田中賢介を四球で歩かせ、後続の二人を打ち取ったところで代打・大谷翔平を迎える。
ここで、炭谷がマウンドに向かった。
「ホームランを打たれてもいいでしょ?」
岸がそう語りかけると、炭谷の腹も決まった。
「もちろん打ち取りたいのは打ち取りたいですけど、ホームランを打たれてもまだ1点勝っているわけですから。マウンドに行ったときに、岸さんが自分から『ホームランを打たれてもいいでしょ?』って、割り切りができていたので」
そこで選択したのが、内角のストレートだ。サインに頷いた岸は内角高めいっぱいに146kmの力強い球を投げ込む。大谷の打球は左中間の前に落ち、2塁打で2、3塁とピンチが拡大した。だが完全に詰まらせた打球で、内容としてはバッテリーに分があった。
直後、迎えたのが中島だ。粘り強さは球界屈指で、2回の1打席目では11球を投げさせられている。そんな左打者に対し、バッテリーは力勝負を選択する。