犠打は日本球界のトレンド?最近の犠打数激増の謎に迫る 【広尾晃の「ネタになる記録ばなし」】
ブログ「野球の記録で話したい」を運営中で『プロ野球解説者を解説する』(イーストプレス刊)の著者でもある広尾晃氏。当WEBサイトでは、MLBとNPBの記録をテーマに、週2回、野球ファンがいつもと違う視点で野球を楽しめるコラムを提供していく。今回はNPBとMLBの犠打についてだ。
2014/12/26
犠打は、〝弱者の戦法〟
犠打は、野球の作戦の中でもかなり特殊なものだと言える。
打者は、普通、アウトにならず出塁することを目指す。しかし犠打は自分がアウトになることと引き換えに走者を進塁させるのだ。まさに「犠牲」である。その「見返り」として、犠打は「打数」には含まれない。犠打でアウトになっても打率は下がらないのだ。
また犠打は「一定の打ち方をしないと記録されない」という特徴がある。結果的に犠打と同じようにゴロを打って走者を進塁、得点させても、バントをしなかった場合は、犠打と見なされない。打数にカウントされて打率は下がる。
余談だが、昔のMLBでは、犠飛=犠牲フライも犠打に含まれていた。2002年巨人の川相昌弘は通算512犠打を記録し、エディ・コリンズが持つMLBの通算犠打数を抜いたと報じられた。しかしコリンズの犠打には犠飛が含まれていた。実際には川相はかなり以前に世界記録を樹立していたのだ。
犠打が多い選手には一定の傾向がある。
今季、NPBの犠打数ランキングを見てみよう。10個以上を記録した選手を掲載した。
犠打を多く記録するのは、本塁打が少なく、打率もそこまで高くない打者が多い。指名打者制のないセリーグでは、投手もランキングに入っている。
中には広島の菊池涼介のように、強打で売り出し中の打者もいるが、彼は「過渡期」だろう。犠打は今後減っていくはずだ。
犠打は普通に打っても安打になる確率が低い選手が用いる(指示される)戦法だと言えよう。表には犠打失敗数も載せたが、犠打は成功率80%以上。極めて確実性が高い。
1点を確実に取りたいNPB的な戦略には欠かせない。
また見方を変えれば犠打は、強打者が少ないチームの戦法、つまり「弱者の戦法」とも言えよう。
MLBでは、犠打はNPBよりも遙かに少ない。
延長戦に制限のないMLBは、接戦のまま終盤を迎えることを嫌う。1点を取る戦法よりも「ビッグイニング=大量得点」でゲームを決めようとする傾向がある。
犠打は1点を取るには有効かもしれないが、アウトカウントは一つ増えるし、大量得点には向かない戦法だ。