野球界の将来を左右する、〝侍ジャパン〟のブランド化戦略【小宮山悟の眼】
千葉ロッテ、さらにはニューヨーク・メッツでプレーし、現在プロ野球解説者・評論家の小宮山悟氏の連載。さまざまな球界のニュースや動きに対して、小宮山氏の眼にはどう映るのか? 新しい野球のミカタをファンの皆さんに提示していきたい。第2回目は、〝侍ジャパン〟のブランド戦略についてだ。
2014/12/31
2020年に向けて、野球は他競技の模範となってほしい
単純に、野球がサッカーに負けないでほしいとか、そういうレベルの話ではない。もっと高所から日本スポーツという視点でとらえた時、この侍ジャパンの事業が成功するかどうかは、非常に大きな意味を持つことになると思う。
周知の通り2020年には東京五輪が開催され、おそらく噂されているように野球も競技種目として復活するだろう。そのスポーツの祭典が日本で開催されるまでの間に、野球がすべての他競技の模範となるような存在になれるのか。これは非常に大きな問題だ。
模範となるためには、もっと他競技との横のつながりも積極的にとるべきだろうし、「野球だから……」というような、間違った特権感も排除されるべきだろう。
80年の歴史を誇るプロ野球界は現在、競技の普及という点で、長嶋茂雄氏と王貞治氏……いわゆるONに長らく頼ってきたツケを払わされる問題に直面している。業界として一致して野球というスポーツを広めるための活動に乏しく、人気拡大を、スーパースター選手の活躍や、人気球団の地上波放送だけに頼ってきた。ただ、その手法はスポーツファンの選択肢が増えた今、限界を迎えつつある。だからこそ、プロ野球界をあげて推し進める侍ジャパン事業には意味があるのだ。
もちろん、競技普及の面で、野球界のすべてが悪いとは思わない。実際、高校野球という優秀なソフトも抱えている。春・夏の甲子園大会は、地上波で全試合完全生中継されるが、そんな高校生の大会は世界中、どこの国を探しても存在しない。ファンがアマチュア時代から選手に注目して、「プロに入ってからこういう選手になったんだ」とわかりやすく応援しやすい流れも出来上がっている。そういう意味では、高校野球は野球人気を支える希望の光であるとも言えるだろう。
野球が、他競技から「我々も野球の真似をしよう」と思われる存在になれるのか。それとも「野球が、ああだから違う方向で行こう」と思われるのか。その結果によって、野球界が歩む道は大きく分かれていくはずだ。
侍ジャパンの活動は、そういう野球界の発展のための象徴のひとつであり、NPBエンタープライズの設立は、その第一歩。もちろん、プロとアマの差や、競技人口などの違いがあるため、すべてのスポーツを横並びで考える必要はない。「ワールドカップ優勝」を最終目的に掲げるサッカーと、「リーグ優勝」を目指す野球では、そもそもゴールが違うから単純に比較もできない。
ただ、野球が日本のスポーツのトップに位置するのは紛れもない事実だ。だからこそ、先頭を切ってやっていかなければならない。野球界のOBとしてだけでなく、ひとりの日本のスポーツ界に携わる者として、そう強く思う。
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小宮山悟(こみやま・さとる)
1965年、千葉県生まれ。早稲田大学を経て、89年ドラフト1位でロッテ・オリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)へ入団。精度の高い制球力を武器に1年目から先発ローテーション入りを果たすと、以降、千葉ロッテのエースとして活躍した。00年、横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)へ移籍。02年はボビー・バレンタイン監督率いるニューヨーク・メッツでプレーした。04年に古巣・千葉ロッテへ復帰、09年に現役を引退した。現在は、野球解説者、野球評論家、Jリーグの理事も務める。