履正社・寺島の指名は“サプライズ”にあらず。ヤクルト「思いどおり」のドラフト補強の背景に投手陣再建への決意【新・燕軍戦記#33】
今年のドラフトでは大方の予想に反し、履正社高の寺島成輝を1巡目で一本釣りした東京ヤクルトスワローズ。総勢5人の投手を指名し、真中満監督は「取ろうと思っていた選手をしっかり取れた」と振り返ったが、今シーズン12球団ワーストのチーム防御率に終わった投手陣の再建には、それだけでは足りない。
2016/10/24
寺島指名は「一番良いピッチャーということ」
ドラフト会議から一夜明けた10月21日、神宮外苑で行われている秋季練習に向かうヤクルトの真中満監督の表情は、晴れやかだった。
「思いどおりの指名ができた? そうですね、はい」
前日に行われたドラフトでは、1巡目で大方の予想に反して履正社高の左腕・寺島成輝を指名。競合する球団はなく、みごとに一本釣りに成功した。
「(スカウトからは)即戦力でいけると聞いています。良さはもう全部ですよね。体も大きいですし、真っすぐも速いですしね。相手を見ながら冷静に投げられるっていうトコもそうですし、メンタル面も強い。いろんな面でレベルが高いピッチャーだと思います」
今季は両リーグワーストのチーム防御率で、Bクラスの5位に沈んだヤクルトにとって、投手陣の立て直しは最大の課題。特に5点近い防御率にあえいだ先発陣のテコ入れのためにも、ドラフト1巡目では即戦力、すなわち大学あるいは社会人の投手を指名するものとみられていた。
大半の予想は桜美林大の右腕・佐々木千隼だったが、阪神も佐々木を指名するのではとの見方もあり、その場合は昨年と同様に抽選となる。結果的には1巡目で最初から佐々木に入札する球団はなかったのだが、ヤクルトが寺島を指名したのは決して抽選のリスクを避けたからではないと、球団関係者は言う。
「佐々木どうこうじゃなくて、それだけウチの中で寺島に対する評価が高かったっていうことです。それだけ良いピッチャーですよ、彼は」
1位指名確定後の会見で、真中監督が「一番良いピッチャーということですよね。スカウトも含めて、一番今年良いピッチャーを指名しようということで、重複しようが何しようが、気にせずいこうという判断の中で、たまたま一本釣りできたということです」と話していたことからも、その評価の高さがうかがえる。
ここ数年、ドラフト1位では「即戦力投手」の獲得を優先してきたヤクルトにあって、2000年以降で見ても高卒のドラ1新人投手は多くない。高校生と大学生・社会人で開催を分けていた分離ドラフトの時代(2005~07年)を除けば、2002年の高井雄平(東北高、現外野手)と2008年の赤川克紀(宮崎商高、引退)だけ。高井は1年目から5勝を挙げたが、赤川は1年目の一軍登板は1試合だけだった。
分離ドラフトの時代に高校生ドラフトで1巡目指名された村中恭兵(2005年東海大甲府高)、増渕竜義(2006年鷲宮高、引退)、そして5球団による競合の末に獲得した由規(2007年仙台育英高)にしても、1年目は順に0勝、1勝、2勝である。
それでも真中監督は「1月の(新人合同自主トレで)体の仕上がり具合を見て、GOサインが出ればそのまま(一軍キャンプに帯同させる)と思います」と話すなど、順調ならば寺島を開幕から先発ローテーション入りさせる可能性も示唆している。
伊藤智仁投手コーチも「まずは実際に見てから」と前置きしつつも「他球団を見ても、高校生をドラフトで取って、大事に育てて良いピッチャーになりました、というのは少ない。本当に良いピッチャーだったら、早く出てくると思うんですよね。本人にも『高校生だからゆっくりでいいや』なんて思ってほしくないし、あまり過保護にはしないと思います」と言う。