履正社・寺島の指名は“サプライズ”にあらず。ヤクルト「思いどおり」のドラフト補強の背景に投手陣再建への決意【新・燕軍戦記#33】
今年のドラフトでは大方の予想に反し、履正社高の寺島成輝を1巡目で一本釣りした東京ヤクルトスワローズ。総勢5人の投手を指名し、真中満監督は「取ろうと思っていた選手をしっかり取れた」と振り返ったが、今シーズン12球団ワーストのチーム防御率に終わった投手陣の再建には、それだけでは足りない。
2016/10/24
秋季キャンプは「実戦的な練習」で現有戦力の底上げへ
今年のドラフトでは寺島のほかに2位・星知弥(明治大)、3位・梅野雄吾(九産大九産高)、4位・中尾輝(名古屋経済大)、6位・菊沢竜佑(相双リテック)と、5位の捕手・古賀優大(明徳義塾高)を除いて5人の投手を指名。高校生2人、大学生2人、社会人1人、うちサウスポーが2人と、バラエティーに富んだ投手の大量指名で、まずは態勢を整えた。
ただし、これだけであれほど苦しんだ投手陣が劇的に変わるとは思えない。「あとは外国人でしょうね。軸になる先発ピッチャーが外国人で取れれば」と言うのは伊藤コーチ。2007年に16勝したセス・グライシンガーを最後に、2ケタ勝利をマークした外国人投手はおらず、オフの補強においてはここも重要なポイントとなる。
だが、なんといっても不可欠なのは個々のレベルアップ──。真中監督も伊藤コーチも、そう声を揃える。やはり現有戦力の底上げなしには、投手陣再建は成しえない。そのためにも、来月の秋季キャンプでは「実戦的な練習」を積極的に取り入れていくと伊藤コーチは言う。
「ポイントでしっかり投げきれずに打たれるというのも目立ったので、しっかり初球から投げきれるように、いろんな練習をやっていこうと思っています。ブルペンでも100球なら100球をずっと投げるんじゃなくて、交代で投げるとか、イニングの頭を想定するとか。1日全球クイックでやったり、フィールディングもそうですけど、実戦的な練習をして全体的にレベルアップしていければいいと思います」
今シーズンは、球団としては46年ぶりの2ケタ勝利投手ゼロ。クオリティ・スタートの割合はリーグで唯一50%を切るなど、先発がなかなか試合をつくることができなかった。その意味でも伊藤コーチが期待するのは、チームでただ1人規定投球回に達した小川泰弘だ。
「開幕投手を3回も務めているピッチャーですから、期待するところは大きいです。まだ、本当の意味で独り立ちはしてないと思うんですよ。『今日は小川だから安心だな』っていうふうにはなってないと思うんですよね」
入団1年目の2013年には16勝を挙げてセリーグ最多勝、新人王などに輝いた小川だが、まだエースへの階段を上りきれていない。今シーズンは夏場に腰の張りで離脱したこともあり、勝ち星は入団4年目で最少の8勝。初めての負け越し(9敗)を喫し、防御率も4.50と自己ワーストを記録した。
「オフの取り組みはトレーニングをしっかり積むことだと思います。やっぱり200イニングに少しでも近づきたいですし、ケガをしないということも大事なことなので、そういう体づくりをしたいですね」(小川)
来年こそ真のエースとなるためにも、小川にとってこの秋の取り組みが重要になるのは言うまでもない。それはなかなか期待に応えることができずにいる石山泰稚、杉浦稔大ら「ドラ1組」にとっても同じことだ。投手陣再建のためには、彼らの成長も欠かすことはできない。昨年に比べ長いオフシーズンになるが、来季の巻き返しに向けた戦いは既に始まっている。