ファイターズ日本一へ導いた、4番の一打。主役・中田の劇中で舞台装置の働きをした大谷【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#41】
10年ぶりの日本一に輝いた北海道日本ハムファイターズ。主役は大谷でもなく、レアードでもなく、やはりあの男だったのではないか。
2016/11/02
形だけにこだわらない栗山采配
大谷は興味深いことに、中田主役の劇中で舞台装置のような働きをする。「敬遠され中田にスポットを浴びさせる装置」「ダミーでネクストに控え、中田の四球押し出しを演出する装置」。ではシリーズの主題は、その中田が強烈な力量を見せつける物語だったか。そうではないのだ。中田は必死だった。そこが何度思い返しても泣けてくる。
中田は四球を選び、気持ちのヒットでつなぎ、劣勢を跳ね返す一発を放り込む「チームの人」だった。稲葉篤紀に托されたチームリーダーだった。
一方、栗山英樹監督とコーチングスタッフは素晴らしいチームマネジメントをした。僕は「コーディネーション力」と表現してみたい。広島・緒方孝市監督は「型」を重んじる采配だった。先に2勝したことで「普段通り」にこだわる感じになる。中継ぎ、抑えは連投が続き、ファイターズとしては攻略の糸口が見つかる。
対して栗山采配は選手の調子を見極めるものだった。僕らファンはシーズン終盤、不安定だったアンソニー・バースやルイス・メンドーサの活躍に驚くことになる。逆に調子落ちの陽岱鋼は守備固め要員だった。短期決戦だからそこはハッキリさせていた。
僕らはゲーム等の影響もあってうっかり誤った野球観に陥りやすいのだ。「打力A」とか「守備力B」とか、そういうのが固定してると思ってしまう。「つかえるヤツ」と「イラネ」とが固定してると思ってしまう。実際は重圧のなか、状況のなかで色んな風に変わる。「大看板」は必ずしも大看板の働きをするとは限らないし、「名手」や「いぶし銀」がポカをすることもある。若手は1試合で驚異的に伸びることもある。名前や格ではなく、シーズン実績でもなく、チーム全体のコーディネーションで短期決戦をやりくりする。栗山野球はそういう発想だったと思う。
ただ幻に終わった第7戦「黒田vs大谷」を思うといささか心が揺れる。これぞ掛け値なし、「大看板」の直接対決だった。実現していたらどうなっていただろう。シリーズの主題も主役も、今、申し述べたこととすっかり変貌したかもしれない。野球ファンに永遠の謎を残したまま、2016年日本シリーズは幕を閉じた。
日本一おめでとう、北海道日本ハムファイターズ! 感動をありがとう、広島東洋カープ! 野球が久しぶりに話題の中心になった。それを成し遂げたのが地方球団どうし、ひと昔前ならこれ以上ないくらい地味なカード「日ハムvs広島」であったことを誇りに思う。
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