辻内崇伸、ドラフト1位の肖像――「ドラ1の宿命、自分の扱いは『異常だ』」|第4回
かつて「ドラフト1位」でプロに入団した選手1人の野球人生をクローズアップする。華やかな世界として脚光を浴びる一方で、現役生活では「ドラフト1位」という肩書に苦悩し、厳しさも味わった。その選手にとって、果たしてプロ野球という世界はどのようなものだったのだろうか。(2016年10月31日配信分、再掲載)
2020/04/09
田崎健太
ドラフト1位の宿命
2006年シーズンからジャイアンツの監督が、堀内恒夫から原辰徳に代わった。47才の若い指揮官が率いる新しいジャイアンツの一つの象徴が、150キロ超の速球を投げるドラフト1位の新人、辻内だった。
1月31日、キャンプの行われる宮崎に着いた原は、辻内に触れている。
「実力至上主義の中で(紅白戦で)起用していく」
「状況は冷静に見ていきたいが、彼についてはファンも注目している。何せぼくは彼のピッチングを見たことがない。当然、見てみたい気持ちはありますよ」
期待の左腕の一挙手一投足はスポーツ紙に追いかけられることになった。
〈2軍からのスタートになる今キャンプ。いよいよMAX156キロの速球を披露する舞台が整ってきたが、辻内はひとつだけ不安材料を抱えての宮崎入りとなった。30日に風邪をひいて39度の高熱を出し、自主練習を休んでジャイアンツ寮で終日寝込んだ。食事ものどを通らないほど。宮崎入りし、宿舎に入ってからも即トレーナー室でチェックを受け、薬も渡された〉(『スポーツ報知』2月1日付)
辻内は自分の扱いは「異常だ」と冷静だったという。
「キャンプでは毎日、最初と最後、囲み取材があるんです。チームの人に2軍なのに、こんなに囲まれるというのはなかったって言われましたね。(囲み取材で)話すことなんかないんです。でも、(記者は)なんか言わせたい。ぼくは言わない。ちょっとの言葉を膨らませて書かれることは分かっていましたから。阿部(慎之助)さんに叱られたとか、そういうのを書きたいんです。ああ、これがドラフト1位の宿命なんやと」
ジャイアンツの関連企業であるスポーツ報知の紙面では、連日、辻内の記事が載っている。〈キャンプの応援に両親がやってくる〉〈疲労回復を早める〝黄金水〟を導入〉〈元横浜の佐々木氏から大魔神フォークを伝授される〉〈辻内肉体改造〉といった類いの記事だ。他の高校ドラフト1位の選手から辻内へのメッセージを送るという連続コラムまで始まっていた。
期待の新人の原稿を、苦労して絞り出している様が浮かんでくる。