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首脳陣も認めるヤクルト坂口の価値――今季チームMVP級の活躍、自由契約からの華麗なる復活劇【新・燕軍戦記#34】

今季は主力の野手に故障者が相次いだ東京ヤクルトスワローズにあって、シーズンを通して試合に出続け、リーグ10位の打率.295をマークしたのが坂口智隆である。数字に表れない部分も含め、その働きは今季のチームMVPに値するといっていい。

2016/11/11

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「いなかったらと思うとゾッとする」

 三木コーチが「他の選手も良い影響をもらった」というように、坂口の貢献度は数字だけでは計れない。本人は「僕は自分のことでいっぱいいっぱいやったんで」と笑うが、チームが窮地に陥った時期には陰でナインを鼓舞したこともあった。

「『東京』って名乗れるほどの花形はいない。オレらは『下町スワローズ』だ。下町スワローズの力、見せたろかい!」

 昨季の打点王・畠山和洋を皮切りに、昨季の首位打者・川端慎吾、そして雄平と主力に故障が相次ぎ、昨季のMVP・山田哲人までが左第八肋骨骨挫傷で姿を消した8月初旬。“花形”が揃っていなくなり、ラインナップの大半を占めていたのは一軍でレギュラーを張った経験のない選手たち。そんな彼らの背中を、坂口の言葉が押した。

「みんな必死にレギュラーをつかみ取ろうとするメンツばかりだったんで、そうやって言うほうがまとまれると思ったんでね。若い選手が多かったんで『負けたら離脱してる選手のせいにしとけ。勝ったらオレらの手柄や』ぐらいに割り切っていったほうがいいと思ったんです。あの時期はみんな、これをチャンスと捉えて頑張れたと思います」

 若手主体の選手に対するこの“ゲキ”を、坂口とは同い年でオリックス時代からの盟友である大引啓次が聞いていた。
「言ってましたね、『オレらでやるんや!』みたいな感じで。まあ、半分はおちゃらけですけど(笑)、ムードメーカー的に楽しくやろうみたいな感じで言うのは昔から変わらないですよ。あれで若い選手が『1つになってやってやろう!』っていう気持ちになったんじゃないですかね。テツト(山田)が抜けた時は本当にヤバいって思いましたけど、あそこでよく踏ん張ってましたよね」

 8月10日から4連勝するなど、「下町スワローズ」は山田不在の10試合に勝率5割と善戦した。大引が「ヤバい」と思ったように、あそこで踏ん張っていなかったらそのままズルズルと落ちていっても不思議ではなかった。

 今シーズンを顧みて、杉村繁チーフ打撃コーチは「ゾッとしますね、彼(坂口)がいなかったらと思うとね」という。今年もヤクルト打線の主役が山田だったのは間違いない。なにしろ2年連続トリプルスリー、打率、打点、本塁打、盗塁はいずれもチームトップである。しかし、今季の「チームMVP」となると、それは坂口になるのではないか。数字に表れない部分も含め、今シーズンの働きにはそれぐらいの価値があった。

 その坂口自身は、来シーズンの目標をどこに置いているのか──。
「チームとしてはやっぱり一番上に行きたいですね。個人的には結果を出さないといけない立場っていうのは変わらないと思うんで、もう一度ポジションを勝ち取ってね、最後までグラウンドに立っておきたいです」

 近鉄、オリックス時代も優勝の経験はない。2014年は終盤まで福岡ソフトバンクと優勝を争いながら、最後の直接対決に敗れて涙をのんだ。来年こそは優勝の輪に加わり、初めての美酒をイヤというほど味わうためにも、坂口はひたむきにプレーを続ける。

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