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優勝パレードで1人だけ違った陽岱鋼のたたずまい。得難い個性、華のあるスター選手との別れ【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#43】

11月20日に行われたファイターズの優勝パレードで、他のチームメイトと一線を画していたのがFA宣言した陽岱鋼だった。

2016/11/27

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一から学んで球界屈指の外野手へ

 僕がふっと思い出すのは鎌ヶ谷でくすぶっていた頃の陽だ。暑いさなか、よく見に行ったなぁ。まだダイカンではなく、チョンソだった。金子誠の次を任せられる大型遊撃手というふれ込みだった。今、パリーグ最高の評価を持つセンターは、驚くべきことに内野手出身なのだ。入団して見てすぐ、身体のバネが気に入った。こんな好素材がモノにならないわけがない。
 
 だけど意外と伸び悩んだのだ。守備が使いものにならない。捕球も感覚主体でばらつきがあったが、それ以上に送球がひどい。安定しないどころか、ひんぱんに暴投する。あれはどういうことなのかとコーチ陣に話を聞いた。イップスだった。
 
 イップスは心因性の運動障害のようなものだ。スランプと同義に扱われたりもする。例えばプロゴルファーのパットが突然入らなくなる。気にしはじめるとどんどん症状が進む。チョンソのイップスは送球だった。近藤健介のイップスとよく似ている。元々は強肩の持ち主だったのに何かの拍子で調子が狂ってしまった。
 
 だから彼のコンバートは苦肉の策だった。遊撃手としてダメの烙印が押されたも同然だ。で、そこから外野の練習が始まる。本当に一から学んだのだ。陽の守備センスが抜群なので、僕らはうっかり苦もなくあのレベルに到達したんじゃないかと思ってしまう。実際は背走の足の送りから何から、反復練習を繰り返し、身に着けていったものだ。学習したものをブラッシュアップして、天性のセンスで完成させたものが今の守備だ。努力の痕跡が見えないくらい上手くなった。でも、努力がいらなかったわけじゃない。川名慎一コーチとホントに練習してたんだよ。
 
 あの頃、鎌ヶ谷でくすぶってた「悪童コンビ」が陽と中田翔だ。2人とも見るからにチャラい。チャラいんだけど野球にはマジメだった。ただマジメでもマジメぶらない。
 
 僕が陽岱鋼を、ファイターズの選手として取り上げる機会はこれが最後だろう。野球選手は色んな個性が揃ってたほうがいい。チームが劣勢のとき、逆風のなかに立ってくれるのは優等生よりも「悪童コンビ」のほうだったりする。得難い個性だった。自分のスター性をいつも思い切り表現した。新庄剛志、森本稀哲、糸井嘉男、稲葉篤紀と名手揃いのファイターズ歴代外野手のなかでひと際、華のある選手だった。
 
 ありがとう、さらば陽岱鋼! どこに行っても応援している。札幌ドームに違うユニホームで帰ってきても、ファンは拍手で迎える。来年は(ケガに気をつけて)キャリアハイにしてくれ。パレードで会えてよかった。幸運を祈っている。
 
日本ハムと対戦相手の”ひいき”ぶりを同時に堪能――ラジオ中継の新しい楽しみ方【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#44】
 

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