山田哲人はなぜスターダムにのし上がったのか#2――左右の本塁打王を育てた恩師の教え
2年連続トリプルスリーを達成し、あっという間に球界を代表するスター選手へ駆け上がった山田哲人。きっかけは高校時代にある。
2016/11/28
岡田監督が意識させる、後ろ手の使い方
履正社ではフリーバッティングでは金属バットを使うが、シートバッティングでは木製バットで振ることを義務付けている。
それにはきっちりとした意図がある。
「中学時代にたくさんのホームランを打った実績のある選手が入ってきたりするのですが、たいていの選手は金属バットの力で打っていた選手ばかりなんです。本当のバッティングの技術力があるかどうかは木製で打ててこそなんです。最初、木製では簡単に打てないので、自分の技術のなさを感じてもらえたら、そこから進歩していけるんです」
木製バットを使用させる中で、特に意識させるのが後ろ手の使い方だ。右打者なら右腕、左打者なら左腕だ。これは逆方向に打球を飛ばすためには不可欠な要素だと岡田は感じている。
高校時代に通算55本塁打をかっ飛ばしたT-岡田もその効果をこう話している。
「後ろ手の使い方を意識するようになってから、ホームランが増えました。それまで逆方向の打球は多くなかったんですけど、後ろ手を意識することで打球が変わったんです」
岡田監督は、昨今の高校生には特徴的に癖があるのだという。
「後ろ手のひじがへそのあたりまで入ってこないと、後ろ手は使えないのですが、たいていの選手はそれ以前に止まってしまっている。入ってこないから身体を回すしかなくなってしまう。身体が開くという表現がありますけど、身体は開かないとバットは振れません。早いか遅いかの問題なんですけど、ひじがへその位置まで来ないと身体を回さないといけなくなり、開きが早くなってしまう。結果として、ドアースイングになってしまうんです」
そのスイングを修正させる練習を履正社では様々なティーの中で取り組んでいる。山田がプロに入って、10種類のティーをやっていることがよく取り上げられるが、岡田監督が言うには「杉村さんがされていたティーは、うちでも取り入れているのがいくつもある」と話している。
では、山田はどのような例だったのだろうか。
2年秋までは、引っ張ることしかできないバッターだったと自身は語っていたが、どう変わっていったのか。
「山田の場合も、ドアースイング気味だったんです。真ん中の緩いボールなら、ホームランにできる。そんなん、誰でも出来るじゃないですか。ウチは木製で打たせていますが、木製できっちり打とうと思ったら、中からバットを出さないと打てない。インサイドアウトの軌道でスイングができるようになったこと、ひじが中から上手く押し込めるようになって、打球が逆方向(右側)に飛ぶようになったと思います」
山田が一躍スターダムにのし上がったのは環境要因である、履正社高にあった。
第1回の原稿で紹介した彼の意識の上に、岡田の指導が重なり成長を続けたということだろう。
「右方向は意識していますね。レフトからライトまでグラウンドを全部使いたいんです。その方がヒットになる確率が高くなると思う。練習では右方向に意識付けをしています。試合ではどうしても引っ張ってしまうことが多いので、ポイントが分かるので心掛けています」
最多安打、本塁打王と盗塁王のダブル受賞、そして、2年連続のトリプルスリー。
数々の偉業を果たす前に山田から聞いた言葉は、高校時代を想起させる。