スター階段を上り始めたカープ鈴木誠也。担当スカウトが明かす、ドラフト指名の舞台裏
2016年の新語・流行語大賞を受賞し、“神ってる男”と名付けられた広島・鈴木誠也。2017年はさらなる活躍が期待される。
2017/01/01
阪神の北條と比較された高校時代の鈴木
スカウトの仕事は選手の能力を測るだけではいけない。性格面や家庭環境などの調査はもちろん、さらには、他球団がどの程度、マークしているかの情報も得なければいけない。
尾形の予想では「鈴木は4位には絶対残っていない選手」だった。
とはいえ、説得する材料に乏しいのもまた事実だった。
広島は12球団では珍しくスカウト同士がクロスチェックをしない。
クロスチェックとは、担当以外の地区のドラフト候補をお互いで見合わせることだ。そうすることで見落としを防ぐ、お互いの目線を合わせるという意味合いもある。二名以上のある選手を同じ評価として挙がった際、クロスチェックをしていると議論も円滑になる。しかし、広島はその手法を取っていないのだ。
担当スカウトの眼力が重視されるやり方ではあるが、一方で、他のスカウトが見ていないので、説得するのが難しい。大学選手権や甲子園などの全国大会で出場すれば、スカウトが集結するからクロスチェックの代わりになるが、鈴木にはそれがなかった。
さらに、当時のドラフトはいわゆる豊作世代で逸材が多かったというのも、難しさを助長した。
高校生では藤浪晋太郎(阪神1位)、大谷翔平(日本ハム1位)、濱田達郎(中日2位)の「高校BIG3」。大学球界には東浜巨(ソフトバンク1位)、1年浪人の渦中にいた菅野智之(巨人1位)、則本昂大(楽天2位)小川泰広(ヤクルト2位)がいた。社会人には増田達至(西武1位)である。
1位指名候補と言われた選手のほかにも全国区の逸材がたくさんおり、鈴木がこの中に割って入るのはかなり難しかった。
そして、鈴木と比較対象になったのが光星学院の北條史也(現阪神)だった。
鈴木はプロ入団後、ショートで挑戦するということになっていたからである。
光星学院のショートストップとして3季連続甲子園準優勝。1大会3本塁打、史上最多タイの29打点をマークしていた北條と鈴木では、どちらに分があるかは明らかだった。球団のスカウトは誰もが北條のプレーを見てその素材の高さを知っていたし、尾形自身も「本当にいい選手だと思った」のが本音だ。
しかし、尾形は頑として譲りたくなかった。どうしても獲りたい。その旨を、当時の指揮官・野村謙二郎監督はもちろん、球団代表や常務がいる前でも訴えた。
「基本、うちはクロスチェックをしないので、自分の担当のところだけをみればいいんですけど、自分が獲りたい選手に関しては、スカウト会議の中で、推したい選手をどれだけいえるかなんです。スカウト会議には社長や常務も入るんで、企業のプレゼンみたいな形で話をしていきます。
北條と比較されるのはきつかったです。彼は甲子園で活躍したじゃないですか。僕もいい選手だと思いました。でも、絶対に誠也がいいと言いました。(北條の)東北担当の人と言い合いにもなりました。実績は北條のほうがありますけど、でも、身体能力は誠也です、と。練習の映像を使って説明しましたし、僕が魅力的にみえたっていう走っている姿も見せました」