日本のショートストップは、なぜ、メジャーで通用しないのか。異国を知る者たちが証言する「確実にアウトにするための守備」の盲点【野球考#1】
2017年のプロ野球はシーズンインに向け、選手たちは続々と自主トレーニングに励んでいる。シーズン開幕がいまから待ち遠しいが、ベースボールチャンネルでは、シーズン中とは異なる視点から野球を考察していきたい。その名も「野球考」。第1回目は野球の“花形”ともいわれるショートストップについて、中南米のアカデミーを深く取材するスポーツライター中島大輔氏に日本人ショートストップの課題、メジャーリーガーを多く輩出する中南米の選手との違いについて考察してもらった。(2017年1月11日配信分、再掲載)
2020/04/21
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中南米の選手たちの応用力から学ぶもの
井口への取材でもう一人、名前の挙がったショートがいる。チームメイトで高卒ルーキーだった平沢大河だ。
2016年8月21日の埼玉西武ライオンズ戦で9回裏、森友哉が放った三遊間深くの当たりを逆シングルで捕りに行かず、正面に回り込んでからステップして投げたため、時間のロスが出て内野安打とした。ベンチで見ていた井口は、「もったいない」と感じた。
「今宮に逆シングルで捕られて、ランニングスローされたことが今シーズンありました。平沢にそういうプレーをやれとは言わないけど、自分で見て、こういうプレーのほうがアウトになるんだと感じなければいけない。彼はいま、ステップの幅が大きいじゃないですか。たとえば、もっと小さくしてみる。彼は自分のプレーに安定を求めていますけど、必要なのはそこではないんですよね」
この言葉の真意に気づける選手、球界関係者はどれだけいるだろうか。井口はメジャーでプレーしたからこそ、中南米選手との違いを肌で知っている。守備の基本は日本人内野手のほうが上だと感じた一方、驚かされたのがラティーノたちの応用力だった。
「1歩目、2歩目のダッシュの力と、ランニングスローがすごい。彼らは捕って、いかに早く投げてアウトにできるかを考えています」
筆者は中南米野球の取材をライフワークとしており、2016年にはベネズエラを訪れた。同国はメジャーでゴールドグラブ賞を通算11度獲得したオマー・ビスケル(元クリーブランド・インディアンスなど)や、現役では2015年に同賞に輝いたアルシデス・エスコバー(カンザスシティ・ロイヤルズ)などショートの名手を数多く育てている。
指導現場を取材して回ると、その背景が見えてきた。プロ選手を目指す13~17歳の少年が通う「ロス・ピノス」という国内トップレベルのアカデミーでは、練習でキャッチボールの直後、近距離からゴロを転がし合い、捕球してすぐに送球体勢に入る動きを繰り返していた。デトロイト・タイガースのアカデミーでも、16~20代前半の選手たちに同じ光景が見られた。キャッチボールと同列に置くほど日々の大切なメニューと位置づけることで、「捕って早く投げる」はベネズエラ人のDNAとして受け継がれていくのだ。