大谷翔平、藤浪晋太郎、菅野智之ら大型投手活躍も“180センチ信仰”への疑問。ひそかに存在感を増す小柄な右腕たち【野球考#2】
2017年のプロ野球はシーズンインに向け、選手たちは続々と自主トレーニングに励んでいる。シーズン開幕がいまから待ち遠しいが、ベースボールチャンネルでは、シーズン中とは異なる視点から野球を考察していきたい。その名も「野球考」。第2回目は低身長右腕についての考察だ。大谷翔平、藤浪晋太郎など、球界の右腕といえば、高身長を武器にする投手の台頭が著しいが、一方、低身長の右腕は本当に実力に乏しいのか。毎年、ドラフト候補を追いながら、スカウトとも深く精通しているスポーツライター・谷上史朗氏による考察をお送りする。(2017年1月16日配信分、再掲載)
2020/04/22
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20年ごとに様変わりする高身長投手の数
“日本人離れ”という言葉を耳にする機会がすっかり減ったように思う。ひと際背の高い人物などを表す時にも使われた言い回しには外国人に比べ日本人は体格面で劣るという前提があった。グラウンドの中でもそうだった。
しかし、時代は変わった。
2016年、NPBに支配下登録された日本人選手で最も身長が高かった藤浪晋太郎(阪神タイガース)は197センチ。他にも北海道日本ハムファイターズの大谷翔平(193センチ)、オリックス・バファローズの吉田一将(191センチ)、日本ハム有原航平(189センチ)、読売ジャイアンツの菅野智之(186センチ)らが続く。185センチ以上ということで区切れば、その数は実に115人に上る。
僕が小学生でプロ野球に熱中していた40年前、1977年の選手名鑑を見ると185センチ以上の選手は12球団でわずか20人。しかも12人の投手の中で主戦として活躍していたのは188センチの江本孟紀(阪神タイガース)くらいだ。それが約20年後の1998年にその数は115人にまで増え、2016年の昨年も同数。
まずはじめの20年で一気に大型化が進み、次の20年で大型にして体を使いこなせる選手が格段に増えた印象だ。特に高身長選手は投手に多く、ダルビッシュ有(テキサス・レンジャーズ)や田中将大(ニューヨーク・ヤンキース)らも含め、スケール感を伴ったその活躍ぶりはまさに“日本人離れ”を感じさせる。
と、大型投手の鮮やかな活躍を思っていると、一方には大型でない投手のことがまた浮かんでくるのである。
「もう少し上背があったらなあ」。
いわゆる“ドラフト候補”を追いながらスカウトに話を聞いていると、必ず年に数度、残念そうな表情を浮かべながらの一言を耳にする。
そんな時、スカウトの視線の先にいるのは170センチ台の好投手だ。昨年の高校生右腕では最速となる154km/hを記録した高田萌生(創志学園からドラフト5位で巨人入団)を取材する中でも何度かこのセリフを聞いた。高田の178センチ、75キロのサイズは、本人が憧れ、フォームを真似て作った松坂大輔(福岡ソフトバンクホークス)の高校3年夏とほぼ同じ(179センチ、75キロ)だ。
しかし、時の流れの中で「178センチ」はスカウトの中では物足りない数字になってきたのだろう。そこへ高田は昨夏の甲子園で打ち込まれ、最終的に5位指名となった。しかし、あと5センチ身長があればその順位が2つは上ったのでは?と僕は今でも思っている。
ボールの質や投げっぷりという点でスカウト陣も高評価を口にしていた昨春の選抜大会でベスト8に進出した、明石商業の吉高壮(明石商業→日体大)はさらに低く170センチだった。こちらももう少し上背があれば、プロ側ももっと熱心に獲得意欲を示したはずだ。