「和製大砲」を苦しめた一発の残像。元ロッテ・大松尚逸が語る試行錯誤の12年【前編】
昨年10月に、千葉ロッテから戦力外を通告された大松。千葉ロッテでの12年間で、身体的な悩みを抱えることもあった。その苦悩を2回にわたってお伝えしていく。今回は前編だ。
2017/01/21
12年在籍した千葉ロッテから戦力外通告
ひとつ、ひとつを、ゆっくりと。
自身の動きをチェックするかのように、大松尚逸はその日、静かにバットを振っていた。
2016年の年の瀬が迫った12月中旬。身を包むトレーニングウェアは少しタイトめなサイズを選んでいるのか身体のラインがくっきり浮かび上がっていた。
184cm、93Kgの体躯は本来なら大柄な部類に入るが、それよりも一周り小さく思えるくらい体は全体的にシェープアップされていた。
この日の打撃練習では、彼の代名詞となっている豪快なライト方向へ引っ張るような打球ではなく、センターからレフト方向へ、ボールを十分引き付けて打ち返したものがほとんどだった。新たな決意が、その練習からも伝わった。
昨年10月、12年間籍をおいた千葉ロッテマリーンズから戦力外通告を受けた。
シーズン中の5月末にアキレス腱断裂の重傷を負い、そのリハビリに励む最中の出来事だった。
試合中の怪我。言うなれば公傷扱いのはず。もう1年、千葉ロッテで面倒を見てあげてもいいのではないかという声があがる一方で、かつての輝きが消え失せた近年の不振を例にあげて「妥当な判断」「怪我がなくても戦力外」という心ない声も飛んでいた。
現在34歳。
千葉ロッテに在籍したこの12年間は、他人(ひと)には言えない身体的な悩みを何度も抱えてきた。
それを克服するために、あらゆる手段も講じた。
「年々、やっていること(テーマ)が違うのもありましたし、そういう部分を追い求めていくなかで、常により良い自分になってやろうと思ってやってきたことなんでね……。そこには色んな想いが交錯してありますよ。ただ、年齢を重ねれば当然、体も変化する。今までは自然に出来ていたことが、出来なくなることもある。それを何かのトレーニングで補おうとした時期もありましたけど、それが上手くいかないこともありました。それ一つをとっても、もっと気をつけなければいけなかったのかなという想いがどこかにありますし、ただ、そのときはただ必死でしたからね。あとになったらなんとでも言えますけど、実際難しい問題だったかなと思います」
言いたいことも言えなかった12年間の胸の内をそっと明かした。
アキレス腱断裂の重傷を負ったのは、そうした不安が徐々に解消され、状態が上向きになった矢先の出来事だった。