前田幸長、ドラフト1位の肖像#4――笑顔なき記者会見「なんでロッテなんだ、西武は何をやっているんだ」
(2017年2月18日配信分、再掲載)
2020/04/18
田崎健太
プリンスホテル行きを断り、ロッテ入団を決断
スポーツ紙では、西武の1位指名は、プリンスホテルの石井丈裕となっていた。石井はプロ入り拒否を表明していたが、プリンスホテルは西武の系列企業である。西武がプロ入り拒否を言い含めて、抱え込んでいることは間違いなかった。
ところが、西武が指名したのは、NTT四国の渡辺智男だった。渡辺もまた、右ヒジ遊離軟骨除去手術を理由にプロ入りを拒否していた。他球団が二の足を踏む中、西武は〝単独指名〟したのだ。
ロッテは日立製作所の右腕投手、酒井勉を1位指名していた。ところが、オリックスとの競合でくじ引きとなった。外れくじを引き、〝外れ1位〟として前田を指名したのだ。
ちなみに西武は2位で、石井を指名。渡辺、石井という好投手を競合なしで手に入れた。
恐らく――。
西武の管理部長、根本陸夫はこの二人に加えて、同じくプロ入り拒否を表明させて、他球団を牽制していた前田を獲るつもりだった。渡辺、石井、そして前田のうち、最後まで誰を1位指名するか悩んでいた。前出の報知新聞の中島氏は、その内情を掴んでいたのだろう。
しかし、前田は根本が手配した大学のセレクションを受けず、〝裏工作〟は不首尾に終わっていた。指名すればプロ入りすると踏んだロッテが、酒井を外した後、前田を1位指名した。
また、前田によるとドラフト当日の朝、ヤクルトのスカウトから自宅に電話があったという。
ヤクルトが1位指名を考えていた川崎憲次郎は複数球団からの重複が確実だった。前田を1位指名すれば入ってくれるのかという確認だった。しかし、この日、自宅には前田も父親もいなかった。兄が電話に出て「わからない」と答えた。ヤクルトは予定通り川崎を1位指名、やはり巨人と重複することになった。そして、くじで引き当て、獲得に成功している。
ドラフト会議の後、自宅に戻った前田は怒りを爆発させた。
「ぼくはそれまで親父に逆らったことがなかった。でもその日は、どうなっているんだって、バッチバチでした。親父が西武1位だって言ったから、プロには入らないって言い続けてきたんじゃないかって。親父は何も言えなかった」
西武からはプリンスホテルに入らないかという提案もあったが、前田は断った。
「いや、もういい。しょうがないからロッテに入る。他、行けないんだから。ロッテに行こうと。それで速攻、話を進めて3日で仮契約ですよ」
仮契約の意味も分からなかったんです、と前田は声を出して笑った。
11月26日、前田はロッテ入団を発表した。この年のドラフト指名選手の契約第1号だった。背番号は11と決まった。
前田幸長、ドラフト1位の肖像#5――プロ野球生活20年、〝アンチ巨人〟だった男のしたたかさ
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