“育てて勝つ”球団理念を体現するドミニカ・カープアカデミー 「マエケン」のグローブとともに、第2のロサリオを目指すデヘスス
カープアカデミーがドミニカに創設されて25年が過ぎた。かつてアルフォンソ・ソリアーノをはじめ、ロビンソン・チェコ、フェリックス・ペルドモらの選手をカープへと送り出してきた。そして昨年はライネル・ロサリオがブレーク。そのあとに続く期待の選手が1月末に育成契約を結んだデヘススだ。ここカープアカデミーではどのような指導が行われているのだろうか。(取材協力:広島東洋カープ、ドミニカ・カープアカデミー)
2015/02/03
Yasumitsu Takahashi
カープとドミニカをつなぐ、元助っ人の存在
デヘススは現在27歳。昨年ブレークしたロサリオも25歳と、前述の通りカープアカデミーには20代半ばで入門してくる選手も多い。
そのあたりの選手選考について山根氏は「うちが重視しているのは年齢よりも選手の伸びしろです。多少年齢は上でも、伸びしろがまだあると判断されれば獲得します。もちろん日本の現場サイドから、左腕が欲しいとか、長距離砲が欲しいといったリクエストがある際には優先的にそうした選手を獲得しますね」と話してくれた。
日本人スタッフとドミニカ人選手をつなぐ上で貴重な存在となっているのが、フェリシアーノコーチの存在だ。自身もこのアカデミーの出身で、広島でも3シーズンプレーした(2004~06)経験を持つ。その後、メキシコリーグや米独立リーグも経験しており、かつ日本語も流暢な彼の存在は大きい。
フェリシアーノコーチは、ドミニカ人の若者が日本で成功を収めるためのポイントについて、こう話してくれた。
「ここにいる選手たちは経験に乏しいので、まずきちんとした身体づくり、その後で野球をきちんと知ることですね。忍耐強くあることも大事です。例えばデヘススは昨年日本球界を経験してより忍耐強くなりました。自分自身をコントロールする術を学んできました。またピッチャーでいうなら、日本的な投球術というものも教えています。そのほうが彼らが日本に行ったときに、よりスムーズに適応できるからです。日本の野球はドミニカともアメリカとも違いますからね」
また、これまでの自分自身の経験が大きな武器になっている。「ドミニカ人は、日本人ほど長時間練習しないですね。1日あたり3~4時間くらいでしょうか。日本の野球は様々な場面で忍耐強さや辛抱強さが要求されます。その部分でアジャストすることの重要さも選手に伝えています。あと野球以外で苦労したのは食事ですね。慣れるまでに1~2年はかかりましたよ」と日本野球とドミニカ野球の違いもあげてくれた。
アメリカ球界やドミニカ野球に親しんできたドミニカ人の若い選手に対し、日本的な野球のエッセンスを加えるというカープアカデミーの指導の特徴について、山根氏は次のように語る。
「日本だと技術指導に重きが置かれがちですが、ここではそれぞれの長所をより伸ばすということを重要視しています。もちろん教えすぎによって、いい部分を消しては、元も子もないので、バランスが非常に難しいのは事実です。ただ、ここに来る子の中には、160キロのボールを投げることができても、牽制の投げ方を知らなかったり、バントの処理がまるでダメというような子が意外といるんです。そうした選手たちにキチンと“野球”を指導するという点はメジャーのアカデミーよりも丁寧だと思っています。ですから、たとえカープの選手になれずにこのアカデミーを去っても、ドミニカのウインターリーグや他の国で引き続きプレーしているカープアカデミー出身選手が多いというのは一つの誇りだと思っています」
さらに、「あとは、日本への適応ということも考え、野球以外の部分でも、目上の人を敬う、挨拶はきちんとする、規律を守る、ということも折りにふれ指導しています。結局、こうした日本の文化を頭に入れておかないと苦しむのは選手自身ですから」とも付け加えてくれた。
最後に山根氏はカープアカデミーの存在を、「うちの球団はご存知のようにマネーゲームには太刀打ちできません。育てて勝つ、というのが球団の方針です。それは、選手はもちろん我々職員だって同じです。そういう意味でもこのアカデミーは球団方針をまさに体現している場所だと思っています」と話してくれた。
ドミニカ共和国カープアカデミーでは、「練習は不可能を可能にする」という言葉をスペイン語に訳した、“La practica hace posible lo imposible” という言葉をモットーとしている。その言葉を胸に、遠くドミニカ共和国から日本球界入りを目指す若者たちが今日も照りつけるカリブの太陽の下で汗を流している。