投手が嫌がる「2番打者」の使い方。再考すべき「送りバント」の期待値【小宮山悟の眼】
近年、2番打者の起用方針が変わってきている。これまではバントなどつなぎの選手を置いていたが、最近は東北楽天ゴールデンイーグルスのカルロス・ペゲーロ外野手や横浜DeNAベイスターズの梶谷隆幸外野手のようにホームランバッターを起用している。打線の1、2番に座る打者と8、9番に座る打者では、1シーズン100打席近くの違いがあることを考えると、いいバッターを少しでも多く打席に立たせることは当然のことだ。
2017/05/18
低迷しているロッテは1番鈴木、2番福浦にすべき
もっとも、日本でも昔からそうした議論がなかったわけではない。それこそ、90年代の始めの頃だったと思うが、西武の森監督と日本ハムの大沢監督が舌戦をかわした時期があった。
大沢さんが「バントばっかりちまちましやがって」と黄金時代の西武の野球を揶揄し、森さんは「確実に点を獲るのに送りバントがいい」という姿勢を貫いた。野村克也さんも森さんに賛同していた。
日本がそういう野球をしてきたのは、チャンスは何度あるか分からないという考えがあったからだ。チャンスを確実に作っていこうという確率のはじき出し方にMLBとは違いがある。チャンスは数少ないという考えのため、バントを多用する戦術を採ってきたというわけだ。
投げる側の意見を言わせてもらえば、打ってくる方が嫌だった。バントをしてきた方がほとんどの場面でピッチングは楽になる。投手は打たれるのを嫌う。その最たる例がホームランだ。初回に先頭の出塁を許して2番が打ってくるというのは、プレッシャーがかかる。逆にバントでアウトをくれるのは本当に助かる。
得点を獲るための作戦としての「送りバント」には議論の余地があるだろう。走者を送りバントで進めたとしても、3割バッターですら10回中7回の失敗があるわけだから、それほど確率が高いわけではない。ならば、信頼できるバッターを並べることで、連打を期待する。さらにいえば、連打が出た時の盛り上がりはチームにいい影響をもたらすものだ。
今年は楽天がペゲーロを開幕から2番に起用した。内情は苦肉の策だったと聞いていたが、それがハマったのを受けて続けてきた梨田監督の采配は見事だ。2番に適任者がいない中で、外国人選手を並べる。今の3人なら、ペゲーロが妥当だろう。それがチームを首位に導いているのだから、采配は成功しているといえる。
ペゲーロが2番にいるとホームランの危険性が多い分、怖いのは確かだ。ただ、投手心理から言わせてもらうと、むしろ「バントもできます」というタイプの攻撃的なスタイルの打者の方が投げづらい。バントができる選手であるのだけれども、打ってくる。こういうタイプは嫌だ。
NPBの選手では阪神の鳥谷敬やDeNAの梶谷は適任だと思う。ランナーがいれば引っ張ることが出きるし、四球、安打も期待できる。加えて、セーフティバントもできる。ペゲーロにはバントが絶対ない。また、空振りするゾーンが多いため、対策を練ることができる。
ただ、低迷しているチームこそ、オフェンシブなラインナップを組むのも状況を打開していくための一つの手だ。
今季、ロッテは何をやっても上手く行かない状況に陥っている。そんなときに、「2番・福浦」という起用を探るのも面白い。もちろん、福浦はベテランだから身体の状態にもよるが、福浦は打撃の技術が一番高い選手だ。
荻野貴司や岡田幸文を1、2番にしていくより、一番調子のいい選手を上位から並べるという作戦で現状を打破していくことができるはずだ。1番・鈴木大地、2番・福浦和也という風に、繋がっていく打順にしていくべきだ。3番は井口資仁がいい。
2番に誰を起用するかだけでも、チームの状況は大きく変わる。楽天はそれを証明している。今後、MLBのように2番打者からMVPが出る時代が来ても不思議はない。
小宮山悟(こみやま・さとる)
1965年、千葉県生まれ。早稲田大学を経て、89年ドラフト1位でロッテ・オリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)へ入団。精度の高い制球力を武器に1年目から先発ローテーション入りを果たすと、以降、千葉ロッテのエースとして活躍した。00年、横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)へ移籍。02年はボビー・バレンタイン監督率いるニューヨーク・メッツでプレーした。04年に古巣・千葉ロッテへ復帰、09年に現役を引退した。現在は、野球解説者、野球評論家、Jリーグの理事も務める。