ジャイアンツ・戸根千明 プロで戦う覚悟を示した”内角攻め”
甲子園出場歴もなければ、大学時代の主戦場も日の目を見ない東都大学野球の2部リーグだった。だが巨人のルーキー左腕・戸根千明は、原辰徳監督から「春季キャンプMVP」に名を挙げられるなど、今脚光を浴びている。そんな戸根の可能性を投球面の変化、変わらぬ人間性から紐解く。
2015/03/03
高木遊
投球から“弱気”が消えた
「10球に1球か2球“これは!”というストレートを投げている。この確率が増えていけば大化けするかもしれないし、しかも変則左腕でしょう。なのにね、内角を突けていないんだよ」
戸根の大学時代に、こう弱点を指摘する他球団のベテランスカウトがいた。戸根も「右打者のほうが投げやすいです。左打者には球が引っかかって当ててしまうイメージがあって……」とこぼしていたように、屈強な体つきに反してやや弱気な投球スタイルが目につくことがあった。
高校時代を「置きに行った球を打たれてしまって、甲子園にあと一歩届かなかった」と振り返っていたが、大学時代でもここ一番でそうした場面が見受けられ、3年春からエースを務めたものの、1部昇格は果たせなかった。
だが、プロ入り後のこれまでの紅白戦やオープン戦を見る限り、フォーム自体は意識的に変えてはいないと言うものの、弱気な姿は見受けられず、評論家からも「内角を思いきりよく突けている」との評価だ。ドラフト指名後に「言葉は悪いかもしれませんが、ケンカ腰で紅白戦からも内角を突いていきます。当ててしまったら後で謝りに行けばいいという気持ちです」と語っていたが、その通りの投球ができている。先発から中継ぎへという変化に加え、「プロでメシを食べていくんだ」という意識が大きいのだろう。
「どうすれば相手に喜んでもらえるか、常に考える」
戸根を取材していると、見た目に似合わずと言ってしまえば失礼だが、繊細な心配りに感心する。それは敗戦時や不本意な投球に終わった日でも変わらず、時に関西人らしいユーモアを飛ばし、時には真摯に自らの投球を振り返る。そして最後には「ありがとうございました。またお願いします!」と一礼を欠かすことはなかった。
「どうすれば相手に喜んでもらえるかは、常に考えるようにしていますね。これ(相手の心理を考えること)はマウンドで絶対に生きることなんで」と戸根も話すように、機転の利いた言動はチーム内、そしてすでにファンからも人気を得てきている。先輩からは人気映画にちなんで“ベイマックス”とのあだ名も付けられるなど、かわいがられる存在だ。
もちろん実力重視の社会ではある。しかしそうして円滑なコミュニケーションを図ることによって、先輩選手やバッテリーを組む捕手から学んでいけることも多いだろう。
自らを厳しく追い込む鍛錬に、相手を察する度量と頭の回転。強靭な肉体から繰り出す強気な投球に加え、その大きな人間性を考えると「開幕一軍」だけに留まらぬ大活躍を期待せずにはいられない。