ロッテ・井口、引退試合で本塁打が生まれた理由は? 21年の現役生活で守ってきたもの
千葉ロッテマリーンズの井口資仁内野手は、21年間のプロ野球生活の幕を下ろした。「1試合でも多く、自分のユニホーム姿を見てほしい」と今年6月20日に引退を表明してから3カ月。日米球界を渡り歩いたベテランは、チームに何を残したのか。
2017/09/26
後輩が井口の背中を見て学んだもの
引退試合で本塁打が出たのも偶然ではない。
今から1カ月前、若手にチャンスを与えるためという理由で、井口は伊東勤監督に登録抹消を申し出た。チーム状態が低迷している状態で、今季限りで引退する選手が1軍にいることは若い選手の芽を摘むことになるという考えだ。
井口の判断は賢明だった。そして、この1カ月を引退試合のための準備に充てた。
2点を追う9回裏、同点本塁打はバックスクリーン右に届いた。土壇場での一発は、彼の芯の強さもあっただろう。しかし、「打てる準備」こそ、井口が何よりこだわってきた部分だった。
ロッテ入団を決めた9年前。さまざまな思いが交錯しての日本球界復帰だったと話している。
「メジャーに行ったときは、向こうでやめるくらいのつもりだった。契約の問題やけがもあったけど、日本の野球界、特に若手が伸び悩んでいるのを見て、僕に伝えられることがあるんじゃないかと思って復帰を決めた」
「日米通算2000本安打、40歳まで現役」を掲げての日本球界復帰は、チームメイトにとって濃密な時間になったに違いない。
3年目・中村奨吾は「夢のような3年間でした」と語る。早大時代から目標は井口だった。
「井口さんはずっと憧れていた人。まさか一緒にプレーできるとは思ってなかった。井口さんから『俺の若いときに似てる』という言葉をかけてもらって、期待してもらった。すべてが勉強になった」
中村は自ら多弁に話しかけるタイプではない。だからこそ、井口の野球に対する姿勢に学ぶことは多かった。
もう一人、井口の背中を見て育った選手がいる。今季途中から調子を上げた8年目・荻野貴司だ。この7年はけがに泣かされ、フルシーズンを万全の状態で戦ったことがなかった。今季は不調こそあったものの、けがなく走り抜けてきた。
そんな荻野は入団2年目の一時期、遊撃手にコンバートされている。「迷惑をかけたけど、井口さんと二遊間を組めたことは財産」と話す。
「ベテランという年齢になっても、全力疾走とか、体のキレを落とさない人。僕の中では、年々スピードが落ちてくるのかなと思ってたけど、井口さんがそうじゃないと教えてくれた。しっかりとやるべきことをやっていたら、僕の年齢でもスピードを落とすことなくやっていけると思った」
目標を達成するために、準備がいかに大切か。井口はその背中で後輩に伝えてきた。
「2軍に落ちてから、あの打球、あの打球方向、自分らしい打球を求めて1カ月練習をしてきた。もう思い残すことはありません」
自らの軸を崩さずに走り続けた21年間。それは「準備力」の賜物だった。