広島の“生え抜き”を育て切る極意とは? スカウト陣のドラフト補強戦略を解く
長い低迷期を乗り越え、セ・リーグを連覇した広島東洋カープ。現在の躍進を支えているのは、“生え抜き”と呼ばれる選手たちだ。その選手たちを発掘したスカウト陣はどのようなドラフト補強戦略を持っているのか。『ベースボールサミット第11回 特集 広島東洋カープ』(カンゼン)から読み解く。
2017/10/26
大学通算1勝も「磨けば大成する」。今季15勝の薮田
さらに、菊池涼介や薮田和樹を担当した松本有史スカウトは、「選手を評価する際、長所しか見ない」と語っている。
松本スカウトが菊池を初めて見たのは、中京学院大学2年の頃。当時は遊撃手として活躍しており、抜群の身体能力でプロ注目の存在だったものの、正面のゴロに弱いなど荒さがあったことから、他球団の評価が分かれていたという。
しかし、松本スカウトは「アマの選手を見に行って、これほどまで鳥肌が立ったのは初めて」と振り返るほどに高く評価した。その理由については、「忍者みたい」という印象を持ったフィールディングにあり、捕球の荒さなど短所に関しては「練習を繰り返せば直せる」と語った。
菊池はプロ2年目の2013年から二塁手の定位置を獲得し、連続でゴールデングラブ賞を受賞する守備の名手として名を馳せている。さらに侍ジャパンの一員として出場した2017年のWBCでは圧倒的な守備力で世界に衝撃を与えた。
さらに、松本スカウトの慧眼は、薮田和樹の発掘にもつながっている。亜細亜大でプレーしていた薮田は、故障の影響もあって公式戦での登板機会は限られており、東都大学リーグでは通算1勝にとどまっていた。
それでも松本スカウトは亜細亜大OBとしてのパイプを生かして薮田の練習試合での登板を視察。「身体能力はずば抜けている。磨けば大成する」と確信を持って2014年のドラフト会議で2位指名に推薦した。
その薮田も3年目の今季は38試合の登板(先発15試合)で15勝3敗、防御率2.58と大活躍。最高勝率のタイトルを獲得するとともに、広島のセ・リーグ連覇に大きく貢献した。
苑田スカウト部長は、「中にはいい選手をどんどん追いかける球団もあるが、うちはそうではない。補強するポジションの選手だけを追えばいい。12球団でカープのスカウトが一番やりやすいと思う」と語る。
“生え抜き”と呼ばれる選手が継続的に育つ背景には、シンプルかつ明確にチームとしてのドラフト補強戦略が確立されていることが挙げられるのだろう。