「おまえはただ投げているだけ」と言われた男が新人王候補に! ドラゴンズ・又吉克樹が持ち合わせた”強運”
9月19日時点で62試合に登板し、9勝をマーク。防御率は2.15と1年目から好成績をあげている又吉克樹。苦しい投手陣の状況の中、セットアップマンとしてチームを支えており、セリーグの新人王候補の一人だ。そんな又吉も、高校、大学時代はいわゆるエリート街道から外れた無印の選手だ。現在に至るまでは、いくつもの幸運な出会いがあった。
2014/09/21
「なぜ真っ直ぐを投げないんだ」。西田監督の言葉が成長のきっかけに
当然ながら、地方リーグでまずまずの成績では、卒業時にプロはもちろん、社会人の強豪からも声はかからない。だが、トライアウトを受けて四国アイランドリーグPLUSの香川オリーブガイナーズへ入団したことが奏功する。
当時、独立リーグの開幕を前にしたオープン戦で、社会人の強豪・Hondaを相手に登板した又吉は、今シーズンの活躍を見たHondaの選手でさえ「記憶にない」というほど、印象の薄い投球でKOされている。
その際、西田真二監督に言われた「なぜ真っ直ぐを投げないんだ」という言葉が、又吉の中にあるマグマを一気に爆発させた。
もし社会人の強豪に進んでいたら、春先のオープン戦の結果で先発起用されなかったかもしれない。そこを首尾よくクリアしたとしても、トーナメントが主体の社会人では、多くの登板機会を得られたかどうかわからない。順調にルーキーでエースになったとしても、ドラフト指名を受けられるのは2年目だ。
表現はよくないが、高校時代からいわゆる”中央球界”にいなかったからこそ、そこで優秀な指導者に出会えたからこそ、又吉はプロへ辿り着けたのだ。
香川で1年目から24試合に登板し、13勝4敗で最多勝利、ベストナインを受賞すると、独立リーグの選手としては過去最高となる2位で中日から指名される。独立リーグはNPB入りを目的としているから、指名順位が低くても社会人のように拒否される恐れはない。それでも2位で名前を挙げられたのは、水面下で11球団が狙っていたからにほかならない。
そうしてプロのユニフォームを着ると、春季キャンプは故郷の沖縄、「投手王国」と言われるチームの指導を受けながら、主力投手の相次ぐ故障もあってチャンスを得るなど、まるですべてが又吉のために回っているかのような形で一軍デビューを果たす。
さらに、必死に投げていると勝ち星も転がり込み、「あいつが投げると勝てる気がする」と言われる存在になる。プロ野球は強い星の下に生まれた者が集まる世界だが、ここまで強運な男もそういない。
だからこそ、又吉にとって大切なのは来シーズンだ。
「あいつを打ち崩さなければ」
そうやって他球団から徹底的に研究された時、どんな投球を見せてくれるのか。それが又吉の本当の凄さなのだと思っている。