選手が言いにくいことを球団に伝え、交渉するのが我々の仕事【事務局長・松原徹氏に聞く、日本プロ野球選手会の実態3】
2004年の球界再編問題の時に、日本のプロ野球選手会の存在を知った野球ファンの方は多くいるのではないだろうか。今回、ノンフィクションライターの田崎健太氏がプロ野球選手会事務局長の松原徹氏へ選手会、そして野球界の抱える様々な問題について取材を行った。3回目以降は選手会事務局の仕事内容や、2000年代に入り選手会のあり方が問われる諸問題へどのように対応していったのか。その実情に迫る。
2015/04/12
ベースボールチャンネル編集部
〝引っ越し〟の費用負担に関しても球団と交渉
筆者は『球童 伊良部秀輝伝』(講談社)を執筆する際、野球協約を読み込んだ(野球協約の問題については、この連載で後に詳しく説明することになる)。そのとき、移籍に伴う〝引っ越し〟について妙に手厚く、「覚書」として記されていることが気になっていた。
わざわざ「トレード時の移転費に関する覚書」という項目が立てられているのだ。
〈3 移転費の金額は、移転地域及び妻帯者であるかを問わず、一律200万円とする。
4 選手契約を譲渡された選手が転居を必要とする場合、譲り受け球団は選手住居の斡旋に努力する。
5 選手契約を譲渡された選手が新たな住居を求めるため下見をするときは、選手及び家族の旅費(新幹線・グリーン又は航空券)を支払う。この場合、譲り受け球団が事前に了承したものについては、必要に応じ宿泊費を追加する。旅費は実費、宿泊費は日本野球機構が定める規程による。
6 選手契約を譲渡された選手が転居する場合、選手及び同居家族の旅費を支払う。この場合、譲り受け球団が事前に了承したものについては、必要に応じ宿泊費を追加する。旅費、宿泊費の扱いは前項と同じとする。
7 選手契約を譲渡された選手が転居する場合、選手及び家族の家財運送費(自家用車の移送代も含む。)は実費を支払う。
8 本覚書の第5項乃至第7項の費用は、いずれも譲り受け球団より当該選手に支払う。〉
〝移転費〟とは引っ越し代のことだ。
野球協約の条文は全般的にかなり大まかで、解釈の余地が大きい。そんな中、この細かな覚書の部分は目立っている。
この覚書について松原に訊ねると、まさに自分たちが球団と交渉した部分だと笑った。
「トレードされたら引っ越しが必要ですよね。引っ越しする実費を出してくれという要望が選手から出ていたんです。奧さんも新しい環境を見たいじゃないですか? そういう交渉を選手会がしたんです」
フリーエージェント権利獲得のためにストライキ等、経営陣との全面対決を辞さないメジャーリーグの選手会と比べると、引っ越し代にこだわる日本の選手会はかなり牧歌的に映る。