【中島大輔 One~この1球、1打席をクローズアップ】ストレートでピンチ脱出、岸孝之が見せたエースの真髄
ある試合の象徴的なワンシーンを切り抜き、その場面の選手の心理や想いを取り上げる連載企画。2回目はライオンズの岸孝之を取り上げる。負けないピッチャーは、ここぞという場面で抑えるだけの力がある。9月15日の東北楽天戦に登板した岸は、5回表に無死一、三塁から島内にタイムリーを打たれ、1点を献上する。後続の二人を打ち取り、なおも2死二、三塁、打席に入ったのは岡島。ここで岸が選択したボールとは――。
2014/09/23
最多勝が、欲しい
島内にヒットを打たれ、なおも無死一、三塁の場面。松井稼頭央をスライダーでサードフライ、バント安打を狙った藤田一也をピッチャーゴロに仕留めて2死にした後、圧巻だったのが、1打席目に12球粘られた岡島豪郎の場面だ。
初球は144kmのストレートが内角高めに外れてボール。2球目は内角へのスライダーがファウルになると、外角高めに145kmのストレートを投じて2ストライクに追い込む。4球目は148kmのストレートが外角低めに外れると、5球目は外角低めに149kmのストレートを投げ込みサードゴロに打ち取った。
1点差に迫られ、なお無死一、三塁というピンチは、並の投手なら一気に崩れてもおかしくない。そうした局面を切り抜けた姿に、西武のエースと言われる岸の真髄を見た。
結局、8回129球を投げて1失点で今季12勝目。この時点でハーラーダービートップの金子千尋(オリックス)に1勝と迫ると、岸は言った。
「(最多勝は)欲しいと言えば、欲しいですね」
岸が個人的な渇望を表すのは珍しい。渡辺久信前監督(現シニアディレクター)がかつて、「岸は負けず嫌い。涌井(秀章)を抜こうという気持ちはあると思う。ただ、口に出さないんだよね」と話していたことがあるほどだ。
その岸が、9月15日の楽天戦後は目標をはっきりと口にした。その背景には、ストレートでピンチを切り抜けた手応えと充実感があった。