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愛された男・矢野謙次が残した財産――チームに伝えつづけた圧倒的な熱量【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#87】

ファイターズの2018年シーズンが終了した。今シーズン限りで矢野謙次が引退したが、最後までチームの一員として戦い、大きな財産を残してくれた。

2018/10/21

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出場登録されていなくても、ロッカーで共に戦いつづけた

「矢野が1軍に帯同したのはロッテ戦よりずっと前、10月初旬だったんですよ。引退はもう決まっていて、出場登録はされていません。でも関係ない。まだ暗いドームでアップして、早めの打撃、外野で球拾い、今まで通りのルーティンを守るんです。残された時間を1秒も無駄にしたくなかったんだと思います」
 
「で、試合中は……、ベテラン組は登録外れたら5回くらいで帰ります。そういうものです。でも矢野は……、あえてユニホームに着替えて、皆とは違うロッカーのモニターで最後まで観戦していました。登録外だから現実にはあり得ないけど、ひょっとしたら代打で呼ばれるかも?、と思い待機してるようにオレには見えました。彼の熱さですね。気づいて見てたのはオレ一人じゃありませんよ。引退試合までの数日、1打席も立たないのに、ものすごい財産をチームに残してくれました」
 
 いや、僕はそれ聞いてひとたまりもない。ダダ泣きだ。すっげぇ、ヤノケン。ユニホームに着替えて、試合最後まで見るってあり得ない。本当にファイターズに来てくれてありがとうと思った。その熱がチームの伝統となって、脈々と受け継がれていくことを願う。ヤノケンは「松坂世代」の38歳だが、誰よりも若いのだ。「代打の神様」的な老成した要素がない。エネルギーが爆発している。熱を隠さない。ベテランがいちばんギラギラしている。
 
「まだ暗いドームでアップして、早めの打撃……」というくだりで僕は一昨年引退した飯山裕志(現・コーチ)を連想した。飯山さんもいっとう最初に球場に出てきて、自分のルーティンを守る人だった。野球の虫だ。情熱の人だ。その姿をやっぱり皆が見ていた。飯山さんは「守備の職人」、ヤノケンさんは「代打の切り札」、役割に違いはあれど明らかに通じるものがある。
 
 ただキャラは違うなぁ。ヤノケンさんのベンチでの野次はすごかったらしい。天衣無縫。気持ちも言葉もまっすぐ出す。飲み会の席で、ヤノケンワールドを色々聞いたけど、そこは割愛する。言葉は部分を切り取られるとひとり歩きする。まして天衣無縫な発言は扱いが難しい。選手を守るのも僕らの仕事だ。
 
 ただ、ヤノケンが現場で愛されてるのは本当によくわかった。まぁ、この原稿はほんのお裾分けでしかないんだけど、「答え合わせ」の楽しさは少し味わえたんじゃないか。どうだろう、読者の見ていたヤノケンと、関係者氏の見たヤノケンは答えが合っていただろうか。
 
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