ライオンズのために……渡辺直人、“暴走”に隠されたプロの矜持【中島大輔 One~この1打席をクローズアップ】
結果だけ見ればアウト。しかし、なぜそのプレーを決断したのかを知ると、また結果とは違った側面が見えてくる。今回はそんな場面をぜひ紹介したい。4月21日、北海道日本ハム戦の7回裏1死2、3塁、炭谷銀仁朗のスクイズで2塁から一気にホームを目指した渡辺直人の走塁だ。
2015/04/27
失敗したけど悔いはない
記録を見ると、単なる“暴走”だ。だが、そのプレーから、3球団を渡り歩いてきた渡辺直人の矜持を見てとることができる。
「行かなくてもよかったですね(苦笑)」
冗談まじりにそう振り返ったのは、4月21日、日本ハム戦の7回裏の場面だ。無死満塁から代打で出た渡辺はショートゴロに倒れたが、相手エラーで2塁に進んだ。
1死2、3塁。炭谷銀仁朗が1塁前にスクイズを転がし、3塁ランナーの森友哉が生還して6対2にリードを広げる。直後、このバントで2塁から3塁に進んだ渡辺は、スピードを落とさないまま本塁突入を試みたのだ。ホームベースに頭から滑り込んだが、間一髪でアウトとなった。
「点差もあるし、2塁でリードを大きくとれていて、相手にスキがあったから行こう、と。自分のなかでの準備はできていたし、悪いプレーではないです。でも、行かなくてもよかった(苦笑)」
渡辺にこのプレーについて聞いたのは、22日の試合前だ。2度も「行かなくてもよかった」と繰り返したことが、どこか気になった。
その真意に迫る前に、確認したかったのは、いつ本塁突入を決断したのかということだ。
「あんまり早く行きすぎると、(本塁突入を)野手に見られちゃいます。どこで決めたのかは感覚なので、言うのは難しいですね。3塁を回りながら野手の動きを把握して、行こう、と」
状況としては森の得点でリードが4点に広がり、あと1点とればダメを押すことができる。しかも2死。積極的なチャレンジが許される局面だ。
「そういうのも考えていますね。あのプレーをした一番の理由は、ランナー2、3塁で、自分が大きくリードをとれていたから。でも、3塁コーチはしっかり止めていたのでね(苦笑)」
そう振り返った渡辺が、決断の理由を明かす。
「自分の見えている範囲で起きているプレーは、自分で判断したい。あそこは失敗したけど、勉強になりました。後悔はないですね。だって、自分に行こうという意識がなかったら、3塁で止まっていますから。こうなったらこうしようと考えていて、そうなったから行きましたという話なので」