ライオンズのために……渡辺直人、“暴走”に隠されたプロの矜持【中島大輔 One~この1打席をクローズアップ】
結果だけ見ればアウト。しかし、なぜそのプレーを決断したのかを知ると、また結果とは違った側面が見えてくる。今回はそんな場面をぜひ紹介したい。4月21日、北海道日本ハム戦の7回裏1死2、3塁、炭谷銀仁朗のスクイズで2塁から一気にホームを目指した渡辺直人の走塁だ。
2015/04/27
『あの人、野球好きそうだな』というプレーを
35歳になる今シーズンを迎える前、渡辺とじっくり話す機会があった。そのなかで印象に残ったのは、彼らしい言葉だ。
「躍動感あふれるというか、見ている人が『あの人、野球好きそうだな』と思ってもらえるようなプレーをしたいですね」
近年、渡辺はグラウンドで「楽しい」という感覚を強く持つようになってきたという。その裏にあるのは、境遇の変化だ。
楽天では1年目の2007年からレギュラーを張った一方、11年に移籍した横浜(現DeNA)では出番がなかなか訪れない時期も経験した。
「レギュラーで出ていた頃のほうが、毎日がしんどい。責任とか、背負うものがあると思うんです。そういうときに比べると、まずは自分が楽しく野球をやることを一番に考えています。自分が楽しくやっていなかったり、一生懸命やっていなかったら、見ている人もおもしろくないと思うので。仮に負けても、見に来てよかったと思ってもらえるような試合にしたいし、自分もそういう意志は見せたいって思っています」
そうした気持ちは13年途中に西武に加入して以降、一層強くなっている。
「僕はライオンズに拾ってもらったと思っているんですよ。自分が野球をできなくなるかもしれないという環境から、もう1回チャンスをくれた球団だと思っていて。すごく感謝しているし、運があるなと思っているので。ライオンズのために、いままで自分がやってきた経験なり、自分の野球スタイルをすべてぶつけようと思っているだけです」
そんな思いを表現したのが、あの本塁突入だった。
ショートのレギュラーとして104試合に出場した昨季から一変、今季は途中出場が多くなっている。だが、普段からいい準備ができているからこそ、果敢な走塁をできたのではないだろうか。
「そうですね。後悔のないプレーです。失敗しても、成功しても、自分で責任をとれるようにしていかないといけない。その準備はいつも意識しています」
2度も「行かなくてもよかった」と語ったのは、アウトになった責任からだろう。だが、間一髪のナイストライだった。
記録だけを見ると、渡辺のアウトは単なる“暴走”だ。
だが、意志の込められたプレーを掘り起こしていくと、プロフェッショナルの矜持が見えてくる。
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