日本球界に前例のない根尾昂。“逸材”を獲得した中日の使命、指揮官が語る育成
2018年のプロ野球ドラフト会議で最大の注目を集めた大阪桐蔭・根尾昂内野手。4球団競合の末、交渉権を獲得したのは中日ドラゴンズだ。内外野守備、投手、優れた打撃力と多彩な才能を持つ逸材をいかに育てるのか。
2018/10/26
Kana Yamagishi
指揮官が語る根尾の育成「一番活躍できる“適所”さがす」
監督としての初仕事を果たした与田監督は喜びを沈めながら、逸材の育成についてこう語った。
「(彼がどのポジションをやるか)本人の意思を尊重したいと思っています。いまのドラゴンズのチーム状況というのは、すべてのポジションに置いて補強したいという気持ちはありますけど、根尾くんが一番、プロ野球で活躍できる“適所”というのをわれわれは探していかなければいけない」
プロ野球界でありがちなのは、選手が器用であることに頼りすぎてしまうところだ。例えば、守備力がまだ1軍レベルになくても、バッティングが良ければ、コンバートしてまで起用するということがざらにある。
本来は「遊撃手」として期待して獲得したことも忘れ、もともと持っていた選手としての価値を変えてしまうのだ。今年もまだ3年目なのに、外野手として多く試合に出場した例があった。「ナンバーワン遊撃手」として、3年前に2球団の指名を受けた“逸材”がその花形ポジションを奪われているという事実は、日本の育成力の無さを証明していると言えるだろう。
根尾も、もちろん、小園も、チームを背負って立つほどの選手になり得るが、それだけではない。球界を代表する選手という立ち位置まで育て上げるのが、これほどの逸材を獲得したチームに課せられた使命とも言える。
中日にそれほどの覚悟があるかどうかが何よりも大事だ。
与田監督にそれを問うと、自分自身に言い聞かせるように力強くこう語った。
「なぜ、根尾くんがこれほどの選手になったのかっていうのは、中学や高校時代など過去をしっかり紐解いていかないといけないと思う。彼がこれまで培ってきたことと、プロに入って全く違うことをさせてしまうのはよくないと思います。それは他の選手も同じなんですけど、彼を作り上げた要因を研究していきたいと思う」
与田監督の言葉を聞く限り、根尾はいい上司がいる球団に指名されたと思う。選手の側に立って、これまでの成長過程を尊重しようという姿勢は、彼を育成していく上では重要になるだろう。
だが、それは指揮官だけの想いであってはならない。長く低迷しているチームが現状を打破するには、根尾のようなこれまでと違ったタイプの選手をどう受け入れ、育て上げるかが鍵になるのではないか。
球団の誰もが欲した根尾の獲得でチームが変わる。
中日にとって2018年のドラフト会議はターニングポイントになるのかもしれない。
氏原英明