大谷翔平、球速170キロも可能 恵まれた体格をフルに活かす身体的センス
プロの第一線で活躍する選手たちは、どのように体を動かしてピッチングやバッティングのフォームを構築し、結果を残しているのか。そのメカニズムを探るべく、筑波大学硬式野球部の監督で、投球や打撃フォームについて独自の解析・研究を行っている、筑波大学体育系准教授の川村卓さんに話を聞いた。第2回となる今回は、北海道日本ハムファイターズの大谷翔平にスポットを当てる。プロ3年目ながら、二刀流で結果を残す若き才能のポテンシャルとは――。
2015/05/11
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踏み出した脚をキュッと引ける理由とは?
上半身だけでなく、下半身の筋肉にも大谷選手は恵まれています。ピッチャーが脚を踏み出して体重移動する際、軸がブレないように耐えなければいけませんが、このとき大きく作用するのが、太ももの内側にある内転筋です。
この内転筋を上手に使って体重移動をギリギリまで我慢できると、下半身で生まれたパワーを上半身へと伝えることができ、強く速いボールを投げられるという仕組みです。言葉で説明するのは簡単ですが、内転筋も肩甲骨周りの筋肉と同じく、普段は意識的に使われないため、実際に行うのはとても難しいものです。
こうした筋力的な強さを証明しているのが、大谷選手特有のフォロースルーと同時に踏み出した脚をキュッと引く動きです。これは、脚を踏み出したときに腰は回転し始めていますが、肩が回らずに“上半身を残せている”ことを実証しています。つまり、脚の踏み出しから、腰、肩という順番で下から上にパワーを伝えることができているのです。
これは指導していても本当に克服困難な課題ですが、大谷選手はあれだけ大きな体格にもかかわらず、こうした難しい動作をナチュラルに行えています。
ただし、前述したように、内転筋は大きなパワーを生む筋肉ではなく、補助的に体を支えるために使われる筋肉です。逆に言えば、補助的な役割を果たす筋肉に過度な負荷がかかるため、ケガをしやすくなります。多くのいいピッチャーが内転筋や股関節のケガに悩まれるのは、こうしたことが原因です。外側の大きな筋肉を鍛えて、筋力バランスを整えなければなりません。
その点、大谷投手の筋力バランスはとてもいいと思います。これは私見ですが、大谷投手の場合、現在は技術的な修正よりも筋力トレーニングに重きを置いているように見受けられます。体力に見合った技術しかつかないので、今はなるべく体の幹となる部分をつくって、24~25歳を迎えた頃に体と技術を完成させるイメージを持っているのではないでしょうか。
実際、年を経るごとに体は目覚ましく成長しています。特に、股関節からお尻にかけての体幹と呼ばれる部分の成長は本当に素晴らしいと思いますね。