”ムラのある投手からの脱却へ”十亀剣、笑顔なき完投勝利の理由【中島大輔 One~この1球をクローズアップ】
昨年までは好不調の波が激しく、ムラのある投手というイメージの強かった十亀剣が、今季安定感ある投球を見せている。ライオンズの先発ローテーションの一角として首位争いに貢献。苦い経験を踏まえて、着実に成長を遂げている一方で、まだまだ本人は納得していない。今回は、5月5日のオリックス・バファローズ戦8回無死で迎えたT-岡田の打席、カウント1-0からの1球をクローズアップする。
2015/05/11
完投勝利も笑みはなし
今季初の完投勝利を飾ったというのに、十亀剣の顔にはうれしそうな様子が微塵も感じられなかった。それどころか、ヒーローインタビューの後に報道陣に対応した右腕は、まるで負け投手になったかのように表情が曇っていた。
「もうちょっとしっかり投げなければいけない、という立場にいなければいけないので。そういう自分へのプレッシャーも込めて、です。でも、納得はしてないですけど、しっかりつくれたという部分ではよかったなと思います」
5月5日のオリックス戦で投げた112球のうち、十亀が最も後悔したのは8回無死、先頭打者のT-岡田に1ボールから投げた94球目だ。内角を目掛けた143kmのストレートがシュート回転し、真ん中に甘く入る。T-岡田にライトスタンドまで豪快な当たりを運ばれ、完封を逃した。
「しっかり内に投げ込もうという意図で投げたんですけど、それが結果的にシュート回転しながら内に入って、ああいう形で打たれてしまったので。次はもうちょっと違う形で、反省を活かして投げていきたいと思います」
2011年秋に十亀が西武からドラフト1位で指名された直後、JR東日本で指導していた堀井哲也監督に聞いた話が強く印象に残っている。
「考え方も、姿勢も、非常に前向きな子です。前に行くことによって、自分を強くしているという言い方がいいかもしれない」
今季開幕前、堀井監督の言葉を十亀にぶつけてみた。すると返ってきたのが、クローザー失格、股関節痛などで4勝5敗という不甲斐ない成績に終わった昨季の悔恨だ。
「1、2年目はそれなりの結果を残せて、3年目は『絶対今年はやるんだ』という気持ちで入ったんですけど、こういう成績になってしまいました。その分、今年はやらないとマズイ。今年うまく結果が出なかったら、結局、『そこまでの選手だ』で終わってしまうので。今年は一番頑張らなければいけない年だと思っています」
昨季までの十亀は、ムラのある投手だった。強烈な豪球で手も足も出させないほど相手を圧倒する試合があれば、次の登板では立ち上がりから制球に苦しんで自滅することも少なくない。いいときと悪いときのギャップが、ジキルとハイドのごとくありすぎるのだ。
「2年目に先発で1年間回ったときは、それが顕著に出ていたと思うんですよ。でも去年は悪いなりに何とかできたというのが、僕のなかでちょこっと見えていたんですね。僕だけに限らず、岸(孝之)さんでも悪いときはあります。そういうときの対処をうまくできる人が、エースと言われる立場だと思う。そこにたどり着くには、そういうところをもう少し修正していかなければと思っています」